蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ハリー・オーガスト、15回目の人生

2018年03月30日 | 本の感想
ハリー・オーガスト、15回目の人生(クレア・ノース 角川文庫)

ハリーは、死ぬと人生の記憶を持ったまま自分が生まれた時点の自分自身に生まれ変わるという特異な体質?を持っている。このような体質を持った人物(カーラチャクラ)はそれなりの数がいて世界各地でクロノス・クラブという互助会?を組織していた。
ハリーは、何回目かの人生で世界の滅亡を予感する。その原因はカーラチャクラであるヴィンセントが自分の繰り返される人生で蓄えた科学的知見をつかって実際の歴史より科学を進歩させていることになった。ハリーはヴィンセントの思惑を阻止しようとするが・・・という話。

ハリーとヴィンセントの話が本書の軸ではあるが、ハリーの繰り返される人生の中でのカーラチャクラやそうでない普通の人々とのかかわりも断片的かつ多数回にわたって挿入される。いわばこの寄り道的な部分もとても面白い。特に実父と養父との絡みの部分がよかった。

ラストにはカタルシスが用意されていて、そこも大変良いのだが、最後まで読むとまた最初に戻って読み返したくなるという、カーラチャクラ的?構成も秀逸だった。
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変わらないために変わり続ける

2018年03月29日 | 本の感想
変わらないために変わり続ける(福岡伸一 文藝春秋)

福岡ハカセ(エッセイの中での著者の自称。本書に限らず使われているが、イマイチだと思うんですよね)のエッセイのファンで、特に過去の有名・無名の科学者の業績をちょっとしたエピソードを交えながら語っているものが好み。本書でもゴルジ体の名前の由来となったカミッロ・ゴルジの話が良かった。
彼は、ゴルジ染色と呼ばれる手法を考案して脳細胞の網目構造を明らかにした。しかし、彼にはカハールというスペイン人のライバルがいて、カハールは神経細胞(ニューロン)が一つ一つ独立していて細胞間には隙間(シナプス)があると唱えた。基本的はカハールが正しかったのだが、ニューロン同士が融合して一体化している部分もあり、ゴルジ説も間違っているとは言えないそうで、二人ともノーベル賞を受けているのだが、知名度においては、細胞内小器官にその名を残しているゴルジさんが圧倒的である。

本書は多くの部分が、サバティカルでニューヨークの大学に滞在していた時期に書かれたもので、ニューヨークでの生活体験。
ニューヨークの鰻丼、地下鉄のキップをクレジットカードで買おうとすると郵便番号の入力を求めらえる話、そこそこ高級な集合住宅でも各室に洗濯スペースがなくて地下などにコインランドリーがあることが多いがそこで洗濯しているのは家事代行のヒスパニックばかりという話など興味深いものも多かったが、これまでのエッセイシリーズに比べると(あくまで相対的にだが)やや精彩に欠けたかな、と思った。
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