蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

君がくれたグッドライフ

2017年09月17日 | 映画の感想
君がくれたグッドライフ

ドイツ人の主人公はALSで余命1年と診断され、安楽死を決断する。まだ自転車をこぐことができる主人公は、(安楽死の措置を受けるために)ベルギーへ長年の友達数人と自転車旅行をすることになる・・・という話。

ドキュメンタリータッチで進むこともあって、安楽死の措置(静脈注射)を受ける場面は、とてもリアルに見え、私には非常に衝撃的だった。

安楽死は医師の手によって行われるのだが、ごく普通のホテルのような一室のベッドで、家族や友人に囲まれ妻に抱かれて、何の変哲もない注射器で実施され、注射されるとすぐに眠るように死に至る。

実施する医師に(合法的とはいえ)殺人をしているという葛藤はないのか?
家族や友人は(本人の意思とはいえ)殺人現場?を目の当たりにしてショックはないのか?
実施する医師や関係者以外の第3者が立ち会わなくて大丈夫なのか?
(映画には出てこないだけで実際には詳細なプロセスが事前・事後にはあるのだろうけど)安楽死って簡単すぎないか?
などという思いが頭をよぎった。

いくら苦痛を伴う不治の病で余命1年で、かつ安楽死を決心していたとしても、私だったら、いざ注射を打たれる日になったら「やっぱ、やめとくわ」と震えて言いそうな気がするが、ヨーロッパの人ってある意味安楽死に慣れているのだろうか?

映画のシーンなのでそう見えるのかもしれないが、主人公たちが自転車で旅する郊外の道はとても素敵で、人生最後の旅にふさわしいなあ、とも思え、何日もいっしょに行動して安楽死の現場にもいてくれる友人が何人もいるなんて羨ましいなあと思えた。
少なくとも私にはそんなことをしてくれそうな人はいそうにないなあ。
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三度目の殺人

2017年09月10日 | 映画の感想
三度目の殺人

弁護士の重盛(福山雅治)は、友人の弁護士・摂津(吉田鋼太郎)から殺人事件の弁護を引き継ぐことになる。容疑者の三隅(役所広司)は数十年前にも殺人を犯し収監されていた。強盗殺人が成立すれば死刑は間違いなく、重盛は怨恨による殺害を主張する方針として殺害された食品会社の社長の周囲をさぐる。社長には娘(咲江=広瀬すず)がおり、娘は三隅と交流があったことがわかる。そのうち三隅は(重盛らに知らせずに)週刊誌に対して殺害は社長夫人から(保険金のために)殺害を依頼されたといい始めるが・・・という話。

仕事の関係で民事裁判に関わったことがあるのだが、訴訟額が大きいこと、原告・被告とも大きな会社で金に糸目をつけずに弁護費用をかけたこともあって一審の判決が出るまで5年以上かかった。最初のうちはやたらと弁護士とミーティングをしていたのだが、2年もすると当事者はだんだん関わりが薄くなってきて、ひたすら双方弁護士と裁判所のトライアングルだけが延々と議論を繰り広げているように思えてきて、その間も費用はどんどんかさんでいるわけで「これって当事者のためというより司法業界の利益のために行われる感じだよな~」なんて不埒なことを考えてしまった。
そんなことを思い出したのは、三隅の刑事裁判が方向性を見失いそうになった時に、裁判官と検察官・弁護士たちが暗黙のうちに(本来はそうすべきでない)進め方を合意する場面が出てきたから。その場面のあとに摂津が「俺たち司法関係者は同じ船に乗っているんだよ」というようなセリフをはいたのが印象的だった。

重盛は、弁護士として(真実には興味がなく)依頼人に有利にはたらく事実・論点のみを主張すべきと考えている。検察官も裁判官も自らの利益に都合がよい方に裁判が進むなら真実なんてどうでもいいと思っている。そして本作の登場人物たちが公判の場で証言することは、ことごとく真実ではない(ように思われる)。
このように、真実や事実は人それぞれに違うものだし、それを裁判というプロセスで明らかにすることはできない、というのが本作のテーマで、本作自体もクリアカットな結末(だれがどのように殺したのか?)は展開されない。
もっとも、場面上は明確でないものの、「三度目の殺人」とは自分自身を殺すことだった、と解釈すると結論は明らかでもあるのだが。

本作は一貫して重盛の視点から描かれるので、重盛の日常生活の場面も多いのだが、離婚係争中でジャンクフードばかり食べるところ、元裁判官の父親が器用に料理をつくるところ、儲かってなさそうなみかけの事務所で(多分国選でおカネにならない)裁判のために夜を徹して仕事をする場面、どうしようもない娘をそれでも愛している場面などがよかった。
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国境の南、太陽の西

2017年09月09日 | 本の感想
国境の南、太陽の西(村上春樹 講談社文庫)

主人公(ハジメ)は小学校の同級生島本さんと仲良くなり彼女の家でレコードと聞いて過ごす時間が好きだった。しかし中学生になると次第に疎遠になってしまう。
その後、彼女(イズミ)ができるがイズミはどうしても最後までいかせてくれず、ハジメはイズミの従姉とできてしまい、別れる。
やがて山登りの時に知り合った女性(有紀子)と結婚し、有紀子の父親の援助を受け脱サラしてジャズバーを開業すると大当たりして外車をのりまわし別荘を買う。
ハジメの店に島本さんがやってくると、主人公は自分が真に愛していたのは島本さんだと気づく・・・という話。

ハジメは深遠そうな人生哲学みたいなものを語り、満ち足りた生活の中でも人生の意義を見出せないことに悩んでいたりするのだけど、やっていることは、とてもひどい男だ。
裸で抱き合いフェラもしてくれるけど、どうしてやらせてくれないイズミに意趣返しするようにその従姉とやりまくり、それがばれるとすぐに別れる、というか捨てる。
有紀子の父親にはさんざん資金援助などを受けておきながら、有紀子が父から株の耳より情報をもらってその株を買うと、そういう汚い金儲けはするな、的なことを言って株を売らせる。
美人はあまり好きじゃないと言って、(どうも十人並の容姿らしい)イズミや有紀子とつきあったり結婚したりしておきながら、超美人になった島本さんが現れるとそちらになびく。あげくに、島本さんが失踪すると(だまっておけばいいのに)妻(有紀子)に浮気していたことを堂々と宣言する。

などとハジメにジェラシーを覚えるのは、彼がモテまくりで儲かっているジャズバーを(とてもハイセンスに)経営していて都心のマンションに住んで毎日2キロもスイムして音楽に精通しヒマがあれば読書に没頭し義父は大金持ちで外車にのって保育園に子供を送迎する、などといったオトコの理想の人生を歩んでいるからだろう。
でも著者の生活あるいは人生ってハジメのそれに近いよなあ。

結局、島本さんは幽霊だったのか、それとも本当に気まぐれな女性だったのか、真相が明かされないのは著者の作品らしい幕切れだった。
本書は冒頭部分の小学生時代の島本さんとのふれあいを描いた部分とても美しい。その部分だけ切り取った短編だったら素晴らしいのになあ、と思った。(なんかその後はポルノっぽくなってしまうので・・・)
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ミッション:8ミニッツ

2017年09月03日 | 映画の感想
ミッション:8ミニッツ

陸軍大尉でアフガンでヘリの操縦士だった主人公(ジェイク・ジレンホール)は、爆破されたシカゴ行の列車の乗客の意識に憑依?して事故の原因や犯人を探し出すという特殊任務を命じられる。ただし憑依できるのは8分間だけで、そのかわり何回でも繰り返すことができる。次第に爆弾を仕掛けた犯人が判明してくるが・・・という話。

過去の事件現場に(意識だけとはいえ?)戻るので、タイムパラドックスものなのかと思ったら、どうもパラレルワールドもののようで、主人公も何回も事故列車へ戻るたびにそのことに気が付く。(といっても、けっこうハードなSF設定で、1回見ただけではタネはよくわからなかったので間違っているかも・・・)
ただし、タネやストーリ―自体が理解できていなくてなんとなく見ていても、十分楽しめる内容にはなっている。

そういう主筋のほかに列車に同席した女性(クリスティーナ→ミシェル・モナハン)とのラブストーリーもあるのだけど、こっちはあまりピンとこなかった。そんなに二人が絆を深める時間はなかったよね・・・
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