蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

世界の終わりの七日間

2017年09月23日 | 本の感想
世界の終わりの七日間(ベン・H・ウインタース ハヤカワポケミス)

小惑星激突まであと1週間。主人公は行方知れずの妹をさがす。妹は小惑星のコースを変えるプランを持っているという怪しげな集団と行動をともにしていたが・・・という話。「地上最後の刑事」3部作の完結編。

いちおうフーダニットのミステリではあるけど、本作もSF色が強い。
破滅のときが近づいた分、憂鬱なムードが全編を覆っている。特にアーミッシュの村で暮らす少女が(周囲の人々のほとんどは世間から隔絶された集団生活をしているために小惑星の件を知らないのだが)こっそり聞いたラジオのニュースで小惑星接近の事実を知ってしまい、主人公にそのことを問いただす場面(そしてラストシーンで主人公に目くばせする場面)が美しくも悲しみに満ちていて印象に残った。

本作のように読んでいて愉快な気分になるとはいえないような本をなぜ読むのだろうか?
「他人の不幸は蜜の味」というわけで架空の世界とはいえ人々の悲惨な境遇を知ることで「自分はまだまし」なんて思いたいからだろうか?
確かに本シリーズを読んでいると、生存の危機にさらされる心配がなさそうな毎日に感謝したい気分になるし、多少の辛いことにも耐えられそうな気がしてくる。

もう一つ、絶望の世界にあっても自らの信義に忠実に生きようとする人々の姿を見ることで勇気づけられる、という面もありそうだ。
けっして捨て鉢にならない主人公とその妹ニコ、第2作の気高い失踪者ブレット、たくましいことこの上ない(主人公の同行者の)コルテス、そしてけなげな犬のフーディーニ・・・

本シリーズ未読の方がいらっしゃったら、3作を続けて一気に読まれることをお勧めしたい。著者の構築した世界にどっぷりと浸る読書体験はなかなか味わえないほど素晴らしい。
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カウントダウン・シティ

2017年09月23日 | 本の感想
カウントダウン・シティ(ベン・H・ウインタース ハヤカワポケミス)

「地上最後の刑事」の続編。小惑星激突まで2カ月あまりとなった頃、主人公の元刑事パレスは幼い頃シッターをしてくれていた女性から失踪した夫の捜索を頼まれる。人類滅亡が確実視され、自殺や失踪は日常茶飯事になっていたが、義理堅く几帳面なパレスは青くて薄いノートを手に探し始めるが・・・という話。

「地上最後の刑事」に比べるとミステリ色は薄くなって、終末を突き付けられた人々と社会の変遷を追うSF的作品になっている。
考えてみると大惨事の後の世界を描いた作品は多いが、惨事の前を舞台にしたものは少ないような気がする。
死刑囚はいつ執行されるかがわからないことが苦しみであると同時に希望にもなっているそうだが、〇月〇日に人類は(多分)滅亡する、と確定日付を告げられると人はどのような行動に出るのか?というテーマに対して色々なパターンを描いている。

一縷の望みを怪しげな科学や宗教に求める人、少しでも助かる確率を上げるためにすし詰めの船でアメリカへ不法入国しようとする人、あきらめて「死ぬまでにしたいことリスト」を作る人、自殺する人。
その中で、主人公の捜索対象である男の(失踪の)動機がひときわ気高く純粋であったことが救いになっている。

肝心の主人公は、破滅を前にして何をしようとしているのか?
ただ流されるままに時間をつぶしているようにも見えるのだが、次の、捜索対象の男を見つけたときのセリフ(P172)を読むとそうでもないのかな?とも思わせる。
「お言葉ですが、小惑星のせいであなたは奥さんのもとを去ったのではない。小惑星は、だれにもなにもさせていない。あんなの、宇宙を飛んでいるただの大きな岩のかたまりですよ。だれがなにをしようと、決断はその人のものです」
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