蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

国境の南、太陽の西

2017年09月09日 | 本の感想
国境の南、太陽の西(村上春樹 講談社文庫)

主人公(ハジメ)は小学校の同級生島本さんと仲良くなり彼女の家でレコードと聞いて過ごす時間が好きだった。しかし中学生になると次第に疎遠になってしまう。
その後、彼女(イズミ)ができるがイズミはどうしても最後までいかせてくれず、ハジメはイズミの従姉とできてしまい、別れる。
やがて山登りの時に知り合った女性(有紀子)と結婚し、有紀子の父親の援助を受け脱サラしてジャズバーを開業すると大当たりして外車をのりまわし別荘を買う。
ハジメの店に島本さんがやってくると、主人公は自分が真に愛していたのは島本さんだと気づく・・・という話。

ハジメは深遠そうな人生哲学みたいなものを語り、満ち足りた生活の中でも人生の意義を見出せないことに悩んでいたりするのだけど、やっていることは、とてもひどい男だ。
裸で抱き合いフェラもしてくれるけど、どうしてやらせてくれないイズミに意趣返しするようにその従姉とやりまくり、それがばれるとすぐに別れる、というか捨てる。
有紀子の父親にはさんざん資金援助などを受けておきながら、有紀子が父から株の耳より情報をもらってその株を買うと、そういう汚い金儲けはするな、的なことを言って株を売らせる。
美人はあまり好きじゃないと言って、(どうも十人並の容姿らしい)イズミや有紀子とつきあったり結婚したりしておきながら、超美人になった島本さんが現れるとそちらになびく。あげくに、島本さんが失踪すると(だまっておけばいいのに)妻(有紀子)に浮気していたことを堂々と宣言する。

などとハジメにジェラシーを覚えるのは、彼がモテまくりで儲かっているジャズバーを(とてもハイセンスに)経営していて都心のマンションに住んで毎日2キロもスイムして音楽に精通しヒマがあれば読書に没頭し義父は大金持ちで外車にのって保育園に子供を送迎する、などといったオトコの理想の人生を歩んでいるからだろう。
でも著者の生活あるいは人生ってハジメのそれに近いよなあ。

結局、島本さんは幽霊だったのか、それとも本当に気まぐれな女性だったのか、真相が明かされないのは著者の作品らしい幕切れだった。
本書は冒頭部分の小学生時代の島本さんとのふれあいを描いた部分とても美しい。その部分だけ切り取った短編だったら素晴らしいのになあ、と思った。(なんかその後はポルノっぽくなってしまうので・・・)

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