蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

砂の栄冠

2016年08月15日 | 本の感想
砂の栄冠(三田紀房 講談社)

埼玉の樫野高校(公立)の野球部はそこそこの強豪校。
軟式出身の七嶋(キャプテン)は、同野球部の個人的支援者の老人からこっそり資金援助を持ちかけられ1000万円を受け取る。
その金で臨時コーチを雇ったりして実力をつけ、ついに甲子園出場を勝ち取るが・・・という話。

高校野球の裏側(眉毛をそって(整えて)いる選手(あるいはそれを許している学校)は一流になれないとか、自分の将来を確保することしか考えていない選手・監督とか、監督の指示をガン無視する選手とか、甲子園では1日4試合を消化するために特異な進行が行われるので慣れていない学校はそれだけで不利とか)を描くことが当初のテーマだったのだが、七嶋が成長するに従って試合のシーンばかりになって普通の野球漫画に近くなっていった。

最後まで一貫していたのは、高校野球(特に甲子園で開催される大会)は日本最大規模のスポーツ興業であり、そこでは観客を味方にしたものが極めて有利である、という主張だと思う。
確かに2週間にもわたって複数のテレビ局が朝から晩まで全試合を完全中継するなんて、プロを含めた世界レベルでみても、飛びぬけた優遇ぶりだ。
そういわれてみると、何年か前に公立高校が全国優勝したことがあるが、同校が勝ち上がるにしたがって、マスコミや観客どころか審判まで同校寄りになっていったように見えたし、昨日(8/14)の東邦-光星学院の9回は観客の声援で異様な雰囲気になっていた。

普通の野球漫画として読むと、宿命のライバル(花形みたいなの)は登場しないし、試合中のあっと驚くような展開(ドカベン的なやつ)は皆無で、それはリアルさを追求したためなのだろうけど、その割に七嶋だけがスーパーマン的に成長してしまったのはちょっとどうだろうか、と思えた。何より(失礼ながら)絵が・・・。

それでも最後まで読んでしまったのは、著者の「主題を読者に伝えたい」という情熱みたいなものが感じられたからかなあ、と思った。
確か23巻だったかと思うが、付録に著者と大谷(翔)の対談が掲載されていて、この中で著者の漫画家としての矜持みたいなものが強調されていたのが印象的だった。



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マネー・ショート

2016年08月15日 | 映画の感想
マネー・ショート

サブプライムローンなどを原資産とした仕組債などの金融商品を(実質的に)空売りして、リーマン危機時に大儲けしたファンドマネージャ3組の姿を描く。

原作では(金融業と縁遠い人にとってはわかりづらい)仕組債などのカラクリの説明にそれなりにページを割いていたが、本作では最小限に抑えて、強い確信をもって巨大なポジションを築いたものの、想定した状況(ローンの破たんが相次ぎ仕組債等の価格が暴落する)はなかなか訪れず、出資者からのプレッシャーが強まる中、追いつめられていくファンドマネージャの姿を描くことに重点が置かれている。

特に出色なのは、クリスチャン・ベールが演じたバーリ(比較的小規模な独立系ファンドのマネージャ)で、迫りくる(自らの)破滅に必死に立ち向かう姿はとてもリアリティがあった。

また、ライアン・ゴズリングも、いつもの役のイメージとはかけ離れた、小ずるそうな大手投資銀行のセールスを好演していた(最初、私はゴズリングだと気付かなかった)。

邦題のサブタイトルは「華麗なる大逆転」なのだが、大逆転の前にじらされるシーンが良すぎたせいか、“大逆転”の場面は今一つぱっとせず、ややカタルシスにかけた感がないでもなかった。
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ブリッジオブスパイ

2016年08月13日 | 映画の感想
ブリッジオブスパイ

冷戦期のアメリカで、ソ連のスパイをしていたアベル(マーク・ライランス)は、米当局に拘束され裁判にかけられる。
民主的な国であることをアピールしたい当局は、腕利きの弁護士ドノヴァン(トム・ハンクス)を弁護人に指定する。
ドノヴァンは、アベルと接触するうち、その人格を尊敬するようになり、弁護に全力を尽くして死刑を回避する。
やがてソ連との間に捕虜交換の合意が成立し、アベルをソ連側に引き渡すことになるが、公的な交渉を避けたい当局は、またもやドノヴァンを手続きの交渉人にする・・・という話。

スピルバーグ監督、コーエン兄弟脚本という、豪勢な組み合わせの作品。
コーエン兄弟脚本というと、アクの強そうなストーリーになりそうなのだが、割合とノーマル?な展開で、誰でも安心して見られるような仕上がりになっている。
そうかといってエンタメ的要素が多いわけでもなく、シンドラーやリンカーンの方の流れをくむシリアスな内容であった。(どっちつかずの中途半端ともいえるかもしれないが)

本作で出色なのは、マーク・ライランス演じるアベルで、見かけは何ともさえないおじさんだし、演技らしい演技もしないのだが、剛毅で真摯な人柄(というか、敵までも魅了してしまうほどのスパイとしての実力?)がオーラのように滲み出ていて、何ともよかった。
ドノヴァンは、死刑になりそうな状況になっても全く動揺しないアベルに「不安じゃないのか?」と尋ねる。
これに対してアベルは「役に立つかね?」(Is it help?と言ったのかな?)と応える。
同じようなやりとりが前半と終盤に2回あるのだが、この場面が特に気に入った。

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鯨分限

2016年08月13日 | 本の感想
鯨分限(伊東潤 光文社)

江戸時代に捕鯨で巨万の富を蓄えた紀州の太地家で、最後の捕鯨の棟梁となった太地覚悟の生涯を描く。

同じ著者の「巨鯨の海」は、同じく太地での捕鯨にまつわる短編集だが、これがとても良かった。それで本書にも期待したのだが、「巨鯨の海」に比べるとだいぶんと落ちる感じだった。

覚悟の青年時代のエピソード(江戸末期)と明治初期の海難事件「大脊見流れ」を描いた部分が互い違いに語られる。
後者の部分は魅力的なのだが、前者の部分がいただけない。
物語上必要性が薄いと思われる高杉や竜馬を登場させるのもあざとい感じがした。
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シン・ゴジラ

2016年08月11日 | 映画の感想
シン・ゴジラ

ロマンスはなく、家族愛もなく、友情もなく、格闘もない、モンスターに人々が追いつめられるようなサスペンスやパニックシーンもない。
極めてスローモーな動き(エネルギー補給のため、ゴジラが街中で数日間動かなくなってしまう!ほど)をする巨大怪獣が、無目的にひたすら東京の建物をぶっ壊し、通常兵器は全く無力、そして、主人公たちが考え出した怪しげな秘密兵器だけが怪獣を沈黙させる唯一の方法となる・・・

そんな映画はつまらない?
いいえ、子供のころから無数の怪獣映画やTV番組を見てきた私のようなものには(怪獣映画として)恐ろしいほどの傑作に見えました。

ゴジラの初登場シーンは、まずはその容姿が意外感バツグンのツカミで、運河に浮かぶ小舟艇を押し流すように上陸するシーンが印象的でした。

高機動する10式戦車は本物のように見え、司令部の描写もリアリティを感じられました(偶然なんですが、防衛相が女性で、かつ、戦力としての自衛隊を使いたくてしょうがなさそうなのが、現実世界とシンクロしているようで、ちょっと笑えました)

クライマックスは、東京のど真ん中で米軍の攻撃を受けたゴジラが怒り狂って?進化し?口からエネルギー波を吐き、背びれ?からビームを乱射するシーンで、いやー迫力満点でした。

ゴジラの撃退シーンは、ビーム乱射シーンほどの迫力はないのですが、なつかし?の電車爆弾(わざわざ「無人」というテロップが挿入されるところが、CMの「個人の感想です」的な風情?が感じられて笑えました)やビル崩壊のシーンは秀逸な出来でした。

実際には、ゴジラが出演?している場面より、主人公たちがゴジラ撃退法を検討したりするシーンの方がはるかに長いのですが、えーと、まあ、そちらはカレーライスについている福神漬みたいなものでして、誰それの演技が不自然、英語がヘンなんてことを言ったり、ゴジラは何を象徴しているのか?なんてことを考えるのは野暮というものだと思います。
やたらと台詞が長くて早口でテロップを多用するのは総監督の趣味らしいのですが、終始その方針?が徹底されているので、それすらも好感できました。

人によっては「見るんじゃなかった」となりかねない作品ですが、さすが本家本元の東宝、日本的怪獣映画の極北といえる仕上がりだと私は思います。
(なお、本作が売れたとしても続編を作るのはやめていただきたいです。どうしてもやるなら(ゴジラが出てこない)決定版モスラがいいな)
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