蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

シャンタラム

2014年09月11日 | 本の感想
シャンタラム(グレゴリー・ディヴィッド・ロバーツ 新潮文庫)

主人公:リンは、オーストラリアで反政府活動をしていたが、家族を失った悲しみからヘロイン中毒になり、薬を買うために銀行強盗をはたらいて捕まり刑務所に入るが、脱獄してインドのボンベイ(ムンバイ)にたどりつく。
そこで巡り合ったドイツ人のカーラに惚れるがなかなか恋は実らない。親切なガイドのプラバカルの紹介でスラムに住みつき、素人ながら医療行為をしてコレラ禍に立ち向かう。
何者かの陰謀により、インドの刑務所にぶち込まれ看守のリンチにあうが、スラムの支配者(カーデル)により救いだされる。
プラバカルら、知り合いの人々が事故等により次々に亡くなり、絶望してヘロインに溺れる。再びカーデルに救出され、彼の依頼でソ連軍と戦うゲリラの支援のためにアフガンにおもむく・・・

養老孟司さんや橘玲さんが相当に強い調子で薦めていらっしゃったので、以前から読んでみたいと思っていたものの、文庫本3冊2000ページ近いボリュームになかなか手が出ませんでしたが、仕事が一段落して残業が減った時期をみはからって読みました。

主人公に、次々に襲いかかる試練。いずれも普通の人生に1回あるかないかのような、生命の危機を伴うものですが、リンは驚異的な体力と強運で切り抜けていきます(ストーリーのかなりの部分が著者の実体験に基づいているらしいので、荒唐無稽とも言い切れなませんが)。
いわゆるジェットコースタームービー的展開ではあるのですが、情景にしても心情にしても語り口がかなりくどくて描写がやたらと詳細(本書を薦める方々にとっては、こういう饒舌ともいえる細密な描写が魅力的なのでしょうが)なので、(中)の前半あたりで「もう読むのやめようかな」と何回か思いました。
しかし、(中)の終盤のヘロイン中毒を克服するプロセスは、経験者ならではの迫力に満ちたものだったので、なんとか読み続け、アフガン編も迫真の出来だったので、なんとか大団円までたどり着くことができました。(著者はアフガンゲリラとして従軍経験があるそうですが、さすがにアフガン編は創作ですよね・・・??)

目まぐるしいストーリー展開とともに、本書を魅力的にしているのは(上)~(中)の前半で描かれるインド社会の風景と国民性の描写(特にスタンディング・ババという立ちっぱなしで修業する僧が印象的でした)。
私自身は極度の出不精なので、「インドに行ってみたい」とは思いませんでしたが、旅行好きな人なら、すぐに出かけたくなること請け合いです。(本書が描くのは1980年代のボンベイなので、世界有数の産業都市になったムンバイはすっかり様変わり、なのかもしれませんが)
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赤猫異聞

2014年09月07日 | 本の感想
赤猫異聞(浅田次郎 新潮社)

明治元年、新政府の体制が固まっていない中、伝馬町の牢番はこれまで通り幕府の役人が担っていた。
伝馬町近くで大火が起こり、牢に囚われている犯罪者たちを(火事がおさまったという鎮火報が発せられたら戻ってくる(戻ってくれば罪一等減じられる)という条件で)解き放つ(これを俗に赤猫といった)。
その犯罪者たちの中に、大きな賭場の中盆で牢名主だった繁松、女郎のまとめ役だったお仙、官軍兵士を何人も切った元旗本の岩瀬七之丞がいた。重罪人と見られていた彼らを解き放つことにしたのは鍵同心・丸山小兵衛だった・・・という話。

著者の得意な、何人かの登場人物の独白体を連ねる形式。独白しない人物(本作だと丸山小兵衛)を浮き彫りにするというのもパターンで、最終章あたりでその人物の真意を明らかにしてお涙頂戴・・・となるのだが、本作では盛り上がりがイマイチだったかな・・・という感じ。
浅田さんだったら、もっと泣かせてくれなきゃ、という高い期待感があるためかもしれないが。

余談だが、ボンクラの語源は、賭場をうまくリードできない人、サイコロの目を読めない人をさす「盆暗」にある、というのを本作で初めて知った。
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