蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

プロムナード 

2014年09月18日 | 本の感想
プロムナード (道尾秀介 文春文庫)

道尾さんの作品で初めて読んだのは「ラットマン」だった。
その感想の中で、日経夕刊に連載されていたエッセイが面白かったのが「ラットマン」を読んだきっかけだった、と書いたことがある。

本書は、その日経夕刊(連載エッセイのコラムコーナーの名前が「プロムナード」で本書のタイトルはそれにちなんでいる)に掲載されたエッセイや書評、著者の習作などが収載されている。

本書でも書かれているように、エッセイが必ずしも著者の経験通りあるいは本音であるとは限らず、作家が書いたものの中には創作も多いのだろう。本書でも「これはフィクションでは?」と思わせるものいくつかある。ショートショートのような鮮やかにオチがついているからだ。

一方、エッセイの素材に大学時代や会社員時代の経験が数多く取り上げられているのに、高校時代以前のネタがあまりないのは、その時代が著者にとってあまり愉快なものではなかったことを示唆している(本書の一編で、高校以前は家庭的に恵まれなかった旨のことが書かれている)のかもしれない。
私が読んだ著者の作品は3冊にすぎないが、そのうちの2冊(龍神の雨向日葵の咲かない夏)が薄幸な少年を主人公にしているのは、こうした経験が反映されているのかもしれない。

数々の文学賞を受賞し、押しも押されぬ人気作家となった著者だが、本書で繰り返し強調される小説創作への情熱は、まるでデビューしたての新人のような熱さを感じさせる。
どうもホラーっぽいムードが苦手で敬遠気味だったんだけれど、他の作品も読んでみたくなった。
(前段で述べたように、作家のエッセイは必ずしも本音を書いているわけではなく、こんなふうに思わされてしまった私は、見事に著者のマーケティングにはまってしまったのかもしれない)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする