蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

氷結の森

2012年07月13日 | 本の感想
氷結の森(熊谷達也 集英社)

直木賞受賞作が、その作家の代表作というケースはあまりないような気がするが、熊谷さんの「邂逅の森」はその例外である作品だった。

本作はマタギを主人公にした森シリーズの第3弾。

「邂逅の森」のレベルには至っていないものの、非常に面白く、久しぶりにページをめくる手が止まらない、終わるのが惜しいと思えた作品だった。

主人公の矢一郎は、天才的射撃能力をもつマタギだったが日露戦争に召集される。戦争から帰ってみると、召集直前に結婚した妻には他人の子供ができていた。しかし、周囲の事情からその妻との生活を強いられる。
やがて密通していたのが親友の男だったことがわかり主人公は逆上して妻と男を責める。妻と男は心中を遂げ、故郷を捨てた主人公を妻の弟が仇として追い回す。
主人公は日本領となったサハリンに渡り、厳しい肉体労働を自らに課してその日暮らしをする。サハリンの先住民と仲良くなるが、先住民の酋長の娘がさらわれてロシアへ連れ去られてしまったので、それを追って海を渡る・・・という話。

主人公がサハリンでニシン漁や樹木の伐採に従事するシーンがとても良いのだが、余談扱い程度のページしか割かれていないのは残念だった。
(「邂逅の森」は、こういった、仕事の描写シーンの連続だったのが気に入った原因の一つだった。)

主筋は先住民の娘をさらった一団を追うアドベンチャーなのだが、こっちイマイチというかややステレオタイプ的だった。それでもいわゆる尼港事件を描いたラストの戦闘シーンは相当の迫力だったが。

もう一つケチをつけると、主人公があまりにもスーパーマンで、かつ、ありえないほど善人なのが少々リアリティに欠けている気がした。

「邂逅の森」の感想でも同じようなことを書いたが、矢一郎が日露戦争で活躍するストーリーが読みたいなあと思った。

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