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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

クワバカ

2020年10月18日 | 本の感想
クワバカ(中村計 光文社新書)

クワガタの採集や飼育にとりつかれたようにのめりこむ人たちを描いたノンフィクション。

表紙の写真になっているマルバネクワガタは、姿形だけみるとアゴが短くて素人目にはイマイチな感じ。しかし主に生息している日本の南西諸島の森はハブが多く、夜行性ということもあって採集は難しい。クワガタの評価のほとんどは大きさで、少しでも大きいマルバネを求めてマニアは離島に泊まり込んで採集する。マルバネ採集で神様扱いされる定木さんは、マルバネなどの標本販売を収入源にしているのだけれど、高値がつく大型の獲物は決して売らない。

もう一人、クワガタに魅了された人として紹介されている吉川さんは、趣味が高じてサラリーマンを辞めインドネシアに移住してクワガタの標本販売の会社をつくってしまう。
二人に共通するのは、自然保護などの公的規制によって道を閉ざされてしまったこと。南西諸島はマルバネの標本に高値がつくことになったことで乱獲が懸念され採集禁止となる島が相次いだ。吉川さんは資源採取を無許可で行ったとして日本に強制送還されてしまう。

現代社会において、成功とか幸福のわかりやすい指標は、保有資産の金銭的評価だろう。その評価は金融機関などのサーバに記録された電子データにすぎなくて、普通はそのサーバはどこにあるのかもわからない・・などと考えていると段々とむなしくなってくる。
クワガタという昆虫に生涯を捧げられるくらい没頭している定木さんや吉川さんの様子を読んでいると、著者が言うように「吉川の来し方を眺めていると、にわかに自分の足元がグラつき始める。自分はそれなりに自由に、それなりに楽しい人生を送れていると信じていたのに、自分にも今とはまるで違う、もっと自由な、もっと幸福な人生があったのではないかと思えてしまう」


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