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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

怒り

2025年04月29日 | 本の感想
怒り(吉田修一 中公文庫)

八王子で一家殺人事件を起こした山神一也は、顔面の整形手術をして逃亡していた。刑事の北見はその行方を追い、寄せられる目撃情報をもとに日本中に出張捜査する。
千葉の漁港の漁協の職員:槇洋平は家出していた娘の愛子を連れ戻して暮らしていた。愛子は、ふらりと現れて漁協に雇われた田代哲也を好きになるが、田代は借金取りに追われていた。
東京のエリートサラリーマン:藤田優馬はゲイで、発展場で知り合った大西直人と気が合って同居している。しかし直人は過去を明かそうとしない。
沖縄のホテルの従業員の母親と暮らす小宮山泉は、無人島の廃墟に住み着いた田中信吾を偶然みつける。田中はやがて泉の同級生の親のホテルで働き始める。

田代、大西、田中の3人のうち誰が(逃亡犯の)山神なのか?というのが主筋。
もしかして時系列が複数あって、3人とも山神本人なのでは?とも思った。しかし、そんな変なひねりはなくて、割合とあっさりかつ明白に誰が山神なのかは明かされる・・・
のだが、そこにいたるまでのプロセスを十分に楽しめる構成になっている。

愛子、優馬、泉は、自分が好意を持った人がもしかして殺人犯なのでは?との疑念にとらわれるが、それぞれに対応方法は異なるものの、皆、好きな人を信じたいという思いと、もしその人が殺人者だったらという疑いに板挟みになって苦しむ。そして3人とも相手を信じきれずに後悔する。
信じるとは?信頼とは?というのがテーマだろうか。


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