蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

素数とバレーボール

2023年05月20日 | 本の感想

素数とバレーボール(平岡陽明 講談社)

高校時代、進学校の弱小バレー部に属した6人の物語。

部員不足から頼み込まれて加入したガンプ(里中灯)はIQ180の天才でかなりの変わり者。ガンプはアメリカでビジネスに成功し大富豪になり、高校時代の最後の試合の後の約束を果たすという名目で他の5人にストックオプション(1500万ドル相当)を渡すというメールを送る。他の5人(気象予報会社に勤める気弱な慎介、グルメ雑誌の編集者の新田、エリートサラリーマンだが部下と不倫している陽一郎、ツアーコンダクターだが一攫千金を狙うタクロー、元プロ雀士で行方不明のみつる)は最初スパムメールと決め込んで無視していたが・・・という話。

 

タイトルを見て、ハイブラウな小難しい話を想像したが、実際には中年にさしかかった男たちのリアルな本音と生態を色々な角度から描く、そういった年代を通りすぎてしまった私のようなものからすると、多少懐しさのある内容だった。

そして次のような陽一郎の述懐が、「本当にそうだよなあ」と心に沁みた。

※※※

「ここ数年、陽一郎はおのれの最期を見つめる時間が多くなっていた。会社員としての最期であり、人間としての最期だ。父の死んだ齢まであと23年。そんなのあっという間だ。23年前の自分は片田舎の18歳の高校生で、体育館でトスをあげ、勉強に悩み、女の子のことばかり考えていた。内面はあの頃からちっとも成長していないような気がする。

子どもの頃は41歳の大人といったら、知らぬことなど何一つない完璧な存在に思えた。でも自分がこの歳になってみると、ぜんぜんそんなことはないのだと思い知らされる。みんなもそんなふうに感じているのだろうか」

※※※

どれだけトシをとっても、自分の内面では昔と同じで変わっていないと誰もが思っているし、実際多くの人は(理想像のオトナのようには)成熟していない。だから子供が想像するようなオトナ、のように完璧でもないし、悟っているわけでもない、ということなのだと思う。


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