蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論

2022年05月04日 | 本の感想
ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論(ディヴィド・グレーバー 岩波書店)

ブルシット・ジョブとは、無意味で不必要な有償の雇用形態と定義されている。
管理職やオフィスワーカーといったホワイトカラー的職種が中心で、その大半はIT化によって生まれたとしている。
こうした職についている人の多くが、(就業時間中にやる仕事がなくて)時間を持て余しており、一方で監視されているので、仕事しているフリをする必要がありそれに苦痛を感じているとしている。

私自身30年くらいIT絡み(作る方ではなくて管理する方)の仕事をしている。
昔は毎日終電といった感じの忙しさだった(作る方はもっと過酷だった)けれど、最近は定時には終われることがほとんど。周りにはネットサーフィンなどで時間をつぶしている人も多い(個人的にはこれはコンピュータパワーが飛躍的に高まったことが原因だと思う。例えば昔のスプレッドシートのアプリでは数千行を処理することが難しかったが、今なら安いPCでも数十万行はいける。これだけでも仕事の時間は相当に減った)。実質的な仕事量は減っているのに、世間的にはIT人材の強化が謳われているので、人員数はどんどん増えている。ために一人当たりの仕事量は激減した、というわけだ。

著者のインタビュウに答えている人の多くが就業時間中にやる仕事がないことの辛さを訴えているが、世の中にはそうでない人(仕事をやらなくてもカネがもらえるなんて超ラッキー。仕事するフリは超絶得意!みたいな)もいっぱいいると思う。私自身が後者に近いし・・・

仕事のキツさや惨めさこそがそれをする人に尊厳と自尊心の感覚の発生源である(したがって楽勝な仕事ではプライドを満たせない)→これがヒマな仕事が辛い原因、とする著者の考察は興味深い。

現代においては、人は自分が生産したものを通じて自らを表現するのではなく、消費したもの(着ている服や聴いている音楽、追っかけの対象など)を通じて自己表現している。それにも関わらず、みずからの生に究極的な意味を与えてくれるのは仕事である、という点も面白かった。

解決策の一例としてユニバーサルなベイシックインカムが提言されている。ヒマでしょうがない就業時間を短くしてその分をベーシックインカムで埋めようという案なのだが、上記の、仕事こそプライドの淵源という論と矛盾しているようにも感じた。
コメント
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