蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

かくて行動経済学は生まれり

2022年03月13日 | 本の感想
かくて行動経済学は生まれり(マイケル・ルイス 文藝春秋)

行動経済学の始祖でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンには、有力な研究パートナーのエイモス・トヴェルスキーがいた。二人は響き合うような関係性で議論を深めていくが・・・というノンフィクション。

行動経済学というものが日本の世間一般に知られるようになったのは2010年代だと思うし、最初の頃はキワモノ扱いだったような気がする。
しかし、ダニエルとエイモスが研究し成果を発表していたのは1970〜80年代。研究と実用の間に長い年月が必要だということを改めて知らされたように感じた。ノーベル賞受賞者に高齢者が多いのはこのタイムラグ(ラグといっても30年とか50年なのだが)のせいだろう。

インターネットを支えるいろいろな技術(例えばDNS)も、考えてみれば最初に発案されたのは数十年も前で、多少の洗練はあったといっても原理自体は全く変わらないまま世界中で使われている。

福島第一原発の事故後、廃炉に携わる技術者の人が「事故にあった原発の廃炉には、まず研究から入らないといけない。どれだけの時間が必要なのか想像できない」といった主旨のことをおっしゃっていたのが印象的だった。

人は、リスクに対して損失が関わる時と利益に関わる時では態度を変える、可能性が低い時ほど感情(に左右されること)が強くなる、だから宝くじ(利益の可能性が極端に低い)を買う人も保険(損失のリスクが極端に低い)に入る人も絶えない、という理屈が印象に残った。
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貧者の戦争

2022年03月13日 | Weblog
貧者の戦争

ウクライナは貧しい国ではないが、軍備を比較すれば、お大尽のロシアに比べると貧者といえるだろう。
その貧者が玄人の予測に反して長い時間リッチマンの攻勢に耐えている。

欧米諸国から供与された携帯兵器(対戦車砲、対空砲)の威力が想像以上らしい。
映像をみると、民間人の乗用車のトランクで運ばれてきた対戦車砲ジャベリンは、おおよその方向を合わせてボタンさえ押せばあとはミサイルが勝手に?的中させてくれるように見える。
もっとも「どのあたりに敵がいるのか」を知るのが最も難しいわけだが、おそらくそこは欧米諸国からほぼリアルタイムでロシア軍の位置情報が提供されているのだろう。

ジャベリンも決して安価とは言えない平気だが、多分全量供与による武器で、ほぼ素人が操作する携帯兵器で1台数億円はしそうな新鋭戦車(と乗員)が撃破されてはたまらない。これが航空機ならなおさらだ。
同じような理屈でたった1発の長距離ミサイルで建造費が数千億円規模の大型空母が無力される恐れがある。

アメリカや西側諸国は、中東やアフリカ、アフガンで自分たちがリッチ側としてこうした貧者の(コストが安い割に破壊力があなどれない)兵器に苦しめられてきたのだが、それが今は逆転しているし、背後に高度なインテリジェンス支援があれば、さらに効果的なのだろう。

健闘が伝えられる貧者側ウクライナだが、量的な軍事力では対抗できるはずもなく、味方からのリアル打撃力による支援も期待できない状況で、守っているだけでは遠からずすり潰されるように主要都市を占拠されてしまいそうだ。
大変不謹慎なもの言いになってしまうのだが、戦史に興味がある人なら、ハリコフといいう地名と現在の戦況からマンシュタインのバックブローを連想するかもしれない。
1943年2〜3月、スターリングラードで甚大な被害を受けた南部のドイツ軍は勢いに乗ったソ連軍の攻勢によって戦線の維持すら難しくなっていたが、南方軍集団のマンシュタイン司令官は、残った機動戦力をかき集めてソ連軍の伸び切った補給線を突き、逆転攻勢に成功、ハリコフを奪回した。
ウクライナ空軍は相応の兵力を維持しているそうだし、マンシュタインのような知恵者が出現して乾坤一擲の攻勢でキエフ前面のロシア軍を追い払う・・・そんな夢想をしてしまった。

独ソ戦では、3月も下旬になると今戦地になっているあたりは泥濘化し、軍隊としての機動はほとんどできなくなって休戦状態になったそうである。土木技術が発達した今ではそんなことはないのかもしれないが、ロシア軍もあまりモタモタできないと思い始めているかもしれない。
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