蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

1918年最強ドイツ軍はなぜ敗れたのか

2020年05月06日 | 本の感想
1918年最強ドイツ軍はなぜ敗れたのか(飯倉章 文春新書)

1918年西部戦線で攻勢に出たドイツ軍は戦術的には勝利を重ねるが、戦略的目的を果たすことはできず、わずか半年後に降伏することになってしまう。容赦なく敵を叩きのめすが大局的な勝利にはたどり着けないドイツ軍(あるいはドイツ国民?)の長所と短所を検証した評論。

日本があまり絡まなかったこともあって、日本では第一次世界大戦への関心は浅い。私自身も同じで、本書は西部戦線中心ながら大戦史のダイジェストにもなっていて、興味深く読めた。
ドイツ軍における参謀本部の位置づけは非常に高く、軍事目的達成のためなら政治や国家的人事にも躊躇なく介入する。というか、1918年頃の参謀総長ヒンデンブルクと参謀次長のルーデンドルフは、国家自体を牛耳っていたかのように本書では描かれている。

本筋とは関係ないが、連合軍側で最も強かったのはフランス軍で、ドイツ軍の攻勢はイギリス軍側に向くことが多く、アメリカ軍は上陸はしたものの戦闘にはほとんど参加していいなかった、というのも意外だった。(多分、第二次世界大戦における各国軍のイメージが強いせいだと思う)
もっともアメリカ軍は大陸からインフルエンザをもたらして大戦終結の大きな要因になったのだが。

ドイツ軍(というか参謀本部)には戦略的目標に対する達成動機が希薄だった、と著者はたびたび強調する。
「日本軍の敗因」的な本でも同様に指摘されることが多いように思うが、戦術的成功なくして戦略的成功もないわけで、戦略的目的達成の成否はコントロール不能であり結果論でしかないと思う。
例えば、真珠湾攻撃は戦略的には大失敗、などと評されることがあるが、それは最終的に日本が敗戦したからそう言われているにすぎないし、宣戦布告がスムーズに行われ、空母がたまたま港内にいたとしたら、文句ない戦略的大勝利だったであろう。
つまり戦術的勝利は誰の目にも明らかだが、戦略的に勝ったのか負けたのかは、最後にならないと評価が定まらないし、紙一重の差から生じるものであると思う。
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日本語びいき

2020年05月06日 | 本の感想
日本語びいき(清水由美 中公文庫)

著者は日本語教師で、外国人に日本語を長年教えている。
ヨシタケシンスケさんのコミカルな挿絵や表紙絵からして、トリビア的な日本語の面白さみたいなものを書いてあるのかと思って読み始めたら、けっこうガチな日本語文法の本だった。真面目に読もうとするとちょっと骨が折れそうだった。

日本人が日本語文法を意識して日本語を話したり書いたりすることはないだろう。本書で解説されているような文法を知らなくても、なんとなくどちらが正しいのかはわかってしまう。
反面、相当な長時間、系統立てて文法などを学んできた英語については、いつまでたっても「なんとなくわかる」の境地には達することができない(私だけかもしれんが)。

それが母国語というものでしょう、と言われると返す言葉がない。
幼児期になんとなく習得してしまった母国語はいつまでたってもなんとなくわかってしまうものなのだろうか。
しかし天然バイリンガル(例えば米国生まれで日本人家庭で育ち米国の学校を出たような人)の人であっても、片方の言語を使わない時期が長くなると、かなり言語的能力は衰えるらしい(さっきの例の人が日本の会社に就職して日本で働いているうち、英語がスムーズに話せなくなる)ので、継続的な使用環境というのも重要だとも思える。
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羊飼いの暮らし

2020年05月06日 | 本の感想
羊飼いの暮らし(ジェイムズ・リーバンクス ハヤカワ文庫)

イギリス北部、いわゆる湖水地方で家族零細経営で羊飼いを代々営む著者の生活ぶりを季節ごとに分割した章立てで描くノンフィクション(とうか自伝)。

私は、羊飼いの主な収入は羊毛だと思っていた。しかし、本書によると、羊毛はほとんど収益にならず、逆にお金を払って引き取ってもらうことすらあるそうだ。羊飼いの収入は羊肉と優秀なタネ羊?を他の羊飼いに売ることで得ているそうである。これが本書を読んで一番意外だったこと。

二番目は牧羊犬が非常に優秀であること。優秀な牧羊犬なくして大量の羊を放し飼いにすることはできないそうである。

著者は義務教育では劣等生だったらしいが、読書好きで独学でオックスフォード大学へ進学する。現代の日本では考えにくい進路(例えると、中卒で学校嫌いの不良少年が家業の農業に従事しながら、高校や予備校に通うことなく、小論文とか面接で能力を認められて東大に入学するみたいな感じ?)イギリスの教育環境の多様性や成熟みたいなものを感じた。これが三番目の感想。
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