蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

誰が音楽をタダにした?

2019年09月21日 | 本の感想
誰が音楽をタダにした?(スティーブン・ウィット 早川書房)

MP3(音楽圧縮ソフト)を開発しフィリップスがサポートするMP2に対抗して標準化させたドイツ人のカールハインツ・ブランデンブルク、
ユニバーサルミュージックのCD工場の従業員で多数の(発売前の)CDを盗み出してファイル共有サイトにリークし続けたデル・グローバー、
音楽制作会社の雇われ社長でラップミュージックの発展に貢献し巨額報酬を得続けたダグ・モリス、
以上3人を主要登場人物として、MP3とファイル共有サイトの普及によって音楽が「タダ」になってしまい、音楽産業が縮小していく過程を描く。

主要登場人物の3人がともに働き者で、それぞれの仕事に懸命に取り組む姿勢が非常に印象的だった。
特にグローバーは制限ギリギリまで工場で残業(1日12時間労働)し、家に帰るとCDを複製したり共有サイトへのリーク作業を数時間するみたいな感じで本当に勤勉。その彼が勤務するユニバーサルが業界シェアの大半を握ったこともあり、たった一人でベルトのバックルあたりに(金属探知機によるチェックをごまかすため)隠して持ち出したCDにより音楽業界に与えた(マイナスの)インパクトは何十億ドルにもなったという。

MP3って単なる圧縮ソフトでしょ?何がそんなにすごいの?みたいなイメージを持っていたのだが、音楽を圧縮するというのはそう簡単なことではなくて、例えば人間の耳では聞き取れない部分や音楽心理学によりなくても印象が変わらない部分などをうまく省略する等の作業を繰り返してサイズを小さくしていくのだという。

著者による調査が非常にきめ細やか(ソースの提示も豊富)な上に、そこはかとないユーモアを漂わせた叙述も良質で、ノンフィクションとは思えない、とても楽しめる作品だった。
コメント
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