蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ルーム

2016年05月09日 | 映画の感想
ルーム

17歳のとき誘拐された主人公は、犯人が敷地内に設けた監禁小屋(台所や風呂まで付いている)で犯人との間にできた子供を産み育てる。主人公は一計を案じ、子供を脱出させて助けを求めようとするが・・・という話。前半が主人公と子供の監禁生活、後半が脱出後の(主人公の)実家での暮らしを描く。

私自身がそうなのですが、あまりに自由すぎて何もかも自分で決められるような自律的な環境でずっと生活していると、時に他者から規律を強制されるような環境・生活(例えば、修道院、軍隊、刑務所みたいな)にあこがれることがあります。
ないものねだりというか、隣の芝生的現象なのだと思いますし、もちろん、他律的な環境に行ったら行ったで、すぐに元に戻りたいと思うだけなのでしょうが。

誰でも子供の頃は保護者の他律的世界で生きていくわけで、昔は私も自律的世界に早く行きたくてわざと実家から離れた大学を選んで、以来一人暮らしを長くしていました。それなのに、時々他律的世界に戻りたいという気分になるのは、成熟が十分でないせいかもしれません。

主人公と子供の監禁生活は、グロテスクではあるものの、(たまに訪れる犯人を除くと)誰にも干渉されない二人だけの理想的世界でもあるわけで、実際脱出して実家で暮らし、外部の人(すでに離婚していた父親やインタビュアなど)と接触した主人公は、そのたびに大きな精神的ダメージを受けてしまいますし、子供は時々「あの部屋に帰りたい」的なことを言い出したりします。

一見、何でも自由にできるように見える環境こそが実は制約だらけなのであり、すべての行動を制約されている所には意外な幸福感がある・・・こうしたアンビバレントでわがままな人間の感情をうまく描いていて感動的でした。

脱出した主人公をめぐる外部の人々は、その多くが主人公たちと自然な関係性を持つ(あるいは取り戻す)ことができませんでした。
そんな中で、主人公の母親のパートナー(主人公の父親とは別の人)の男性が、ゆるやかに子供と接触して心を通じ合わせていく様子がとても良かったです。

また、(各種評論等で言い尽くされていますが)子供役(ジェイコブ・トレンブリー)の演技(なのか自然体なのか)が本当に素晴らしいというか、いとおしいです。子育て中のお母さんなんかがみたらたまらないものがあるのではないでしょうか。


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