蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ひそやかな花園

2013年01月09日 | 本の感想
ひそやかな花園(角田光代 毎日新聞社)

豪勢な別荘で夏休みの数日を送ることを習慣にしていた7人の子供たち。
血縁関係はない彼らとその親たちは、なぜその別荘に集うことにしていたのか。
彼らには共通の秘密があり、多くの子供たちはその秘密を知らずに育つ。
ある夏の小さな事件をきっかけにして、この夏のキャンプは打ち切られた。
しかし、子供たちには忘れがたい楽しい思い出としていつまでも記憶されていた。

ネタバレ(というほどでもないか)だが、共通の秘密というのは、彼らが他人の精子を人工授精して産まれた子供たちだということ。
その秘密は特に(生物学的には父親でない)父親たちにストレスを与え、どの家族も多かれ少なかれ問題を抱えている。

この作品は、そうした歪んだ家族関係や普通ではない出生をしたことに縛られて身動きとれない状態にあった子供たちが、大人になって秘密を知り、何十年ぶりかに再会したことをきっかけとして、そうした桎梏からなんとか逃れようとする姿を描いている。

かなり多くの人物を登場させているので、前半はやや散漫でわかりにくい印象があったが、それぞれの抱える複雑な背景や子供時代からの関係性を、中盤以降うまく収束して、最後のカタルシスの場面(波留が、(本当は大嫌いな)紗有美に対して、自分が会った(本当は吐き気をもよおすほどひどい人物だった)ドナーのことを語る時、ウソをついて素晴らしい人物だったと話し、紗有美を守ってあげた場面。また、雄一郎はそれに気づいていた場面)に説得力を持たせていたと思った。
コメント
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