蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

文人悪妻

2012年07月10日 | 本の感想
文人悪妻(嵐山光三郎 新潮文庫)

明治から昭和前期の文学界で活躍した人妻の行状をコンパクトにまとめたエピソード集。

嵐山さんのリズム良い語り口で楽しく読めるが、書かれている内容自体は、不倫や心中、DVに若死等々相当にアクの強いものばかり。(特にひどいな、と思ったのは島崎藤村と岩野泡鳴)

昔の文壇の人たちは、すぐに思いつめて心中し、それが新聞などで大きく報道されて世間を騒がせていたようだ。

この時代のメディアというのは、新聞や雑誌といった紙媒体がほとんどだったと思うので、作家や評論家は今でいうとTVに登場するアイドル歌手や美人女優みたいなものだったのだろう。登場する人妻もやたらと美人が多いような気がした。
そのせいか、この時代にしては、やたらと離婚する人が多いような気もして、やっぱり世間でスポットライトを浴びると、普通の生活を続けるのは難しくなるものなのだろうか。


嵐山さんは、あとがきがうまいと思う。
本書でも(失礼ながら)あとがきが一番面白かった。
主題が短くまとめられているので、あとがきを読むだけで本体は読まなくてもいいくらいだった。
「世間の男がねらっているのは②の良妻悪夫らしく、夫が働かず、悪いことばかりしていても、性格がいい妻がついてきてくれる。昔の歌謡曲にはこのタイプの夫婦が多く出てきて、ダメな男をけなげな女がささえるのです。つまり、現実にはあり得ないことを男が夢想しているだけのことです」
なんて、ふきだすと同時に大きくうなずいてしまった。

なお、私見では、嵐山さんのあとがきの最高傑作は「ローカル線おいしい旅」という本のそれだと思う。ちょっと引用すると
「色あせた駅舎に秘められた物語を見よ。月光に輝く小さな寒村に行きたまえ。
枯草の湿る匂い、あるいは落葉を焚く白煙のくすぶりを嗅ぐ。目をこらせば雨が降るキャベツ畑のなかにも心をつかんで放さぬ絶景があるのだ。玄界灘の黒いさざ波。日落ちて吹く風。ふる里の夏みかんの木陰に、旅が棲んでいる」
コメント
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