蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

第二音楽室

2011年10月14日 | 本の感想
第二音楽室(佐藤多佳子 文藝春秋)

副題が「school and music」。その副題の通り、小・中・高校における音楽活動(部活や音楽の先生の自主?企画活動)を描いた4つの短編からなっている。
久しぶりに素晴らしい読書体験ができた。

「第二音楽室」

鼓笛隊の楽器選抜にもれてしまい、その他大勢のピアニカを担当することになってしまった主人公は、同じ立場の5人の生徒と(鼓笛隊の練習時間に)屋上にある誰も寄り付かない第二音楽室にたむろする。

60ページほどの短かさなのに、登場人物のキャラクター(絶対音感があってピアノがうまい江崎、変わり者だけど企画力があってリーダ格のルーちゃんなど)が際立ち、学校時代にしかないような、かつ、誰にもおぼえがありそうなイベント(放課後に目的もなく秘密基地的な場所に集って何をするでもなくお菓子を食べたりする)が上手にストーリーにとりいれられていて、主題である“音楽の楽しみ”も十二分に伝わってくる、実によくできた短編。改めて著者の力量に驚く。


「デュエット」
音楽の先生が、テストとして二人での合唱を課す。ペアは男女一人ずつで、生徒同士が相手を見つける、ただし、女性から申し込まれたら男性は断れない・・・という設定自体が楽しい。


「FOUR」
中学の音楽の先生が、これは、と目をつけた生徒4人を指名して(部活動ではない)リコーダーのアンサンブルを組織する。発表の機会は卒業式。主人公はメンバーのうちの一人に好意を抱いているが言い出せない。

私自身は、音痴で練習したこともないので、楽器を弾くことの楽しさを知らない。でもこの話を読んでいると、楽器を操って他の人と合奏できるようになることがとてつもない快楽のように思えてきた。


「裸樹」
主人公は中学校でいじめにあい、登校拒否になる。そんな彼女を支えていたのは、らじゅという名のインディーズシンガーの歌。近所の公園でらじゅとおぼしき人が歌っていたのを聞いたのがきっかけだった。高校に進学して、いじめを回避することが人生最大の目標になってしまった主人公は、軽音楽部でバンドを組むが、練習をしてこないメンバーに文句を言うこともできない。主人公のベースがうまいことがきっかけとなってバンドのリーダー格と仲たがいする。そのうち、らじゅと思っていた人物が、実は同じ高校の留年している3年生であることがわかり・・・

この話も、主題は音楽や楽器を弾くことのすばらしさなのだが、それと並んで、いじめられることのつらさ、いじめの後遺症がどんなものかが、非常に鮮烈に描かれていて印象的だった。
コメント
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