蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ルポ貧困大国アメリカ

2009年01月04日 | 本の感想
ルポ貧困大国アメリカ(堤未果 岩波新書)

4つの観点からアメリカの貧困層の実態を描く。
①貧しさゆえに安くて高カロリーのジャンクフードに依存して肥満人口が増加している。②天災時の危機管理担当官庁(FEMA)の業務の一部が民営化されてハリケーンの被害が拡大した。③医療制度の不備により一回の罹患・入院でライフプランが崩壊している。④貧困層を狙い撃ちした兵隊のリクルーティングに学費ローンの返済に苦しむ多くの若者がひっかかっている。

このうち、④の観点に半分近くの分量がさかれていて、本のタイトルと内容にはズレがあるように感じた。

高校生の32%がクレジットカードを保有している、という記述(出所がはっきりしないが。(直前のビジネスウィークの統計か?))には驚いた。
ただ、別にアメリカ人が特別に借金好きなわけではないと思う。
貯蓄が尽きた層の消費を拡大するには借金させるしかないわけで、どの国よりもコマーシャリズムが発展したアメリカにおいては、借金をさせる誘因(簡単に借金ができる、とか、各種の巧みな宣伝など)が強固なだけだと思う。
そういう意味では貯蓄性向が下がり続けている我が国も借金漬け国家への道を着実に歩みつつある。

冒頭14ページにアメリカの長期的な貧困率のグラフが掲載されている。ここ30年ほどは10%前後で横ばいである。
このグラフからはアメリカが年々「貧困大国化」しているとはいえそうにない。全体の人口は(移民の増加等により)増加しているので貧困層の絶対数は増えているが、着のみ着のままで流入してくる移民が絶えずいることを考えれば、客観的、総体的には、アメリカの「貧困コントロール」は案外うまくいっているようにも思える。

もちろん著者が取材したように、様々な自由化・民営化政策により追い込まれ、貧しさに苦しんでいる人がいるのは事実だろう。しかし、全国民(しかも不法移民もふくめ)がもれなく裕福に暮らしていくことが不可能であることはコミュニズムの実験により証明されている。民主主義、資本主義は最悪の政治・社会制度かもしれないが、これまでに試されたどの制度よりはましな成果を生んできたと考えるべきだろう。
コメント
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