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偏愛と放浪の記録

激闘の果てに。 Wimbledon 2009 FINAL

2009-07-07 22:10:12 | 【スポーツ】素人感覚
 ロディックvsフェデラー。顔合わせこそ違えど、昨年に続きいろんな意味で歴史に残る1戦になったファイナルです。個人的には一昨年もかなり激闘だったとは思うんですが。

 いかにこの対戦成績(18-2)であるとは言え、今のロディックはフェデラーといえどそう簡単に勝てる相手ではないだろうという状態でした。実際、今年に入ってからロディック相手に何度かセット落としてるし、なんせロディックはSFでマレーを下して出てきたわけなので。見たかったんですけどねー、この試合も。

 この試合もお互いサービスは好調を維持。触れてもまともにリターンできない状態です。
 なので互いに無難なキープが続いてましたが、先にブレイクチャンスがあったのはフェデラーだったけどロディックはしっかり凌いでました。というか、決め切れてないぞロジャー。いったかと思ったお得意のフォアのdown the line、しかし怪しいそのwinnerがロディックの絶妙なるチャレンジでフイになった1本。あれは象徴的でした。
 対照的に、フェデラーはたった1度しか与えなかったチャンスをそのまま奪われてしまい、第1セットは7-5でロディック。

 第2セットに入っても、どう見てもつけ入る隙のないロディックのサービスゲーム。これはフェデラーとしてはタイブレイクに持っていくしかないんじゃないかと思いましたが案の定。全くもってお互いチャンスも作らず作らせず突入したタイブレイクで、ロディックが畳みかけて気づけば6-2。ロジャー大ピンチ!
 ……だったのに、フェデラーはここから盛り返して6-6に持ち込むとそのまま突っ走って8-6でタイブレイクを制してセットオール。なんなんですか、あなたは。

 第3セットもほぼ同様。強いて言うならば、ロディックが積極的に前に出てきているのがわかりました。あと、全体的にミスがとても少ない。ロジャーもそんなに多くはなかったと思うけど、今さらだけど去年までのロディックと全然印象が違うのはそこで、フェデラーが揺さぶっても崩れてくれない。スリップして転んでも、次のプレイは変わらない。とにかく高い集中力を持続させているのが伝わってきました。
 それでも、このセットも最終的にタイブレイクを制したのはフェデラー。サービスキープ自体は苦しんでいる印象はなかったので、ただロディックのサービスにどう対処するかの突破口がなかなか見いだせずにいたからこその展開だったんだと思います。あのサーブがボディに来られたらなかなかまともなリターンはできるものではないと思うし、あとは特に大事なポイントはもうこれでもかっちゅーくらいセンター狙いで来てましたね。

 そしてセットカウント2-1で迎えた第4セット、前半でロディックがこの日2度目のサービスブレイク。ファイナルセット突入を覚悟した瞬間でありました(笑)。
 その後も、フェデラーにブレイクチャンスが全くなかったわけではないけど、盛りあがるほどのチャンスはほとんどありませんでした。0-15や0-30と先にリードしても続かない。気づけば40-15、40-30にひっくり返されてそのままあっさりとキープを許すという展開でした。
 なんつっても、なんせロディックが切れない。フェデラーが鋭いクロスのストロークで思いっきりコートの外に追い出したのに、それをいっぱいいっぱいの場所から同じように切り返してwinnerを奪うロディック。鳥肌もんでした、実際。

 だがしかし、待てよ、今日のロディックを見てたらタイブレイクで取るしかない雰囲気なのに、ファイナルセットってタイブレイクないやん……どうするロジャー。
 ……そんな問いに答えてくれるはずもなく(笑)結局やはりフェデラーはロディックのサービスゲームをブレイクできないまま、誰も想像しなかった壮絶なるファイナルセットが始まりました。

 ロディックのサービスで始まったこの試合、ファイナルセットはフェデラーのサービスから。ただ、やっぱり淡々と続いていくんですよねこのセットも。気づけばゲーム数が2桁に乗り、第12ゲームが終わり、タイブレイクもなくこれまでと同じように進んでいく試合。
 このあたり、だんだんこっちの意識も怪しくなってきて(笑)今どういう状況なのかわかんなくなってきてました。ただ延々と続くキープ合戦。ヤマはどこにあるのか。このまま100ゲームとか行っちゃったらどうするの。とかアホなことを考えたりしていました(笑)。

 しかし、プレイの質自体はそんなに落ちた感はなかったですが、サービスの勢いはお互い少しずつ落ちていたかもしれません。20ゲームも過ぎると、それまでほど簡単にエースが取れる状態ではなくなっていたと思います。それでも相対的にはやっぱり互角で、どちらもここぞというところでは1本エースを取りに行き、それをちゃんと取ってしまう。もうどうしようこの2人。どうなっちゃうんだろう。と正直思っておりました。
 先にブレイクポイントを握られたのは確かロジャーだったんじゃないかな。それをここぞの集中力で取り返したら、あとはやっぱりお互いに危なげない。何をどうしたらこの展開が変わるのか。エンドレスとしか思えない。(笑)

 そんな感じで、流れ的にはほとんど変わることのななかった試合でしたが、第29ゲームにはほんの少しだけ違う波が起きたような気がします。フェデラーがこれも淡々とキープしたゲームですが、最後の2本くらいがロディックのミスだったんです。それまでにはあまり見なかった明らかなミス。
 逆にそういうのはフェデラーにこそあった(というか、ロディックが本当にミスしなかった……いや本当はしてるんだけど、してない。だだ崩れしないという意味で、そういう印象を受けるプレイをしてたと思う)ので、これはもしかして……とちょっと思いました。でも今日のロディックはそういうこっちの一瞬の考えを吹っ飛ばすプレイばかりをしてたので、確信にまでは至りませんでした。

 ただ、素人が画面越しに一瞬だけでもそう感じたぐらいなので、実はロジャーはあの時見極めてしまったのかもしれません。最初で最後のチャンスを。

 第30ゲーム(今さらだけどこのタイブレイク不採用って、殺人的ルールですな)、デュース、フェデラーのアドバンテージ。
 3本続いたラリーを、センターに入ったボールをロディックが捉えきれずに打ち上げてしまい、フェデラーにこの試合最初のサービスブレイクを献上するとともに、ゲームセットを迎えることになったのでした。

 フェデラーの目には、全豪や全仏のような涙はありませんでした。どれにも勝るとも劣らない試合であったにもかかわらず、そしてピート・サンプラスの目の前でその記録を抜き去る勝利を挙げたにもかかわらず、感無量というよりはむしろほっとしていたように見えました。
 試合後のプレスカンファレンスで、「最後の最後までアンディ(のサービスゲーム)をブレイクできなかったので、いらいらもした」と言ってましたが、見ている限りのプレイにはそういう感情の揺れはほとんど見られませんでした。去年あたりはけっこうそれが表に出る部分もあったと思うんだけど。今回は、ミスを繰り返したわけじゃなくてロディックが想像以上に手強かったから、自分に対して苛立つという形じゃなかったからかもしれない。
 最後まで思い通りにならなくても、我慢して我慢して、結局は焦ることなく自分のプレイを貫き通した。それがこれまでの膨大な経験で培われた5セットマッチの戦い方であり、自信であり、精神力の源だったんじゃないでしょうか。それはやはり表敬と賞賛に値すると思います。
 奇しくもロディックのコメントも「今までで初めて(自分の)サービスの対処に苦労していたけど、動揺しなかったし、苛立ってるようなそぶりも見せなかった」とのこと。直接戦ったからこそ感じるのであろうロジャーの根底にあるすごさを、改めて見る者に伝えてくれた言葉でした。

 相手を上回る2つのサービスブレイクをもぎ取りながらも、たった1回の、それも試合の最後の最後で喫したブレイクに涙を呑んだロディック。
 表彰式を待つ間ベンチに腰をおろして動かず、強烈なのは時折映し出される表情の、これ以上ないほどに見開かれた目が血走ったような赤みを含んでいた様子。放心状態にも見えたけど、私には、試合が終わったことを頭では理解しながらも、突然試合から投げ出されてしまった体の収まらない興奮を抑え込んでいるようにも見えたものでした。
 そんなロディックの姿がちょっと切なくて、あんたがんばったよ! 本当に強くなったね!! まだまだ上にいけるよー!! と、画面に声をかけてしまいました。(笑)
 コートでのインタビューの間もロディックの表情は硬く、単に悔しさという言葉では表現できない、逆に感情が飽和して無機質になってしまったような印象さえ受けました。そんなアンディを気遣ったロジャーは、その気持ちを誰よりも理解していたことでしょう。去年同じこの場所で、そして今年のメルボルンで自身が経験したのと寸分たがわぬと言ってもよい状況だったから。

 エースの数はフェデラーの方が多かったんですよね。特にファイナルセットが22本で、ロディックの8本を大きく上回ってました。そんなに差がついた印象は不思議となかったんだけど、サービスキープが無難だったのはそのせいか。
 ただロディックのプレイにはキレがあったし、前述の通り触れてもコート内に返せないサービスが多かった。リターンが返って来ても、ラリーの主導権を手放すことは少なかった。エース以外の武器をしっかりと自分のものにしているロディックがそこにいました。

 "Roger" コールに続いて "Roddick" コールも上がったスタジアム。あなたが見せたボールへの執念は、途切れなかった集中力とプレイの進化は、世界中の人々を間違いなく魅了したと思います。ブルックリン夫人の存在はやっぱり偉大だったのかな(笑)。
 それはそれとして(笑)、プレイに関してはもちろんステファンキ新コーチとの相性がとても良かったということが大きいんじゃないでしょうか。何回も言ってるけど、見違えますもん今年のロディック。だからこの先ももっと伸びていきそうで期待しちゃいます。

 なのでデビスカップ欠場を知った時、これは今回の疲労からなのかなと思ったのですが、発表は右臀部の負傷とのこと。これがあの試合によるものなのか、その前から兆候があったものなのかはわかりませんが、今は体も気持ちもゆっくり休めて回復に努めてもらいたいです。またすぐあのプレイを見せてくれることを願って。

 本当に紙一重でした。ロディックにとっては目の前、トロフィーに指がかかるほんの数cm手前のところ。それはフェデラーも重々感じていたと思います。
 ロディック、プレスカンファレンスでもまだ感情の整理がつかないのか、声も重くてなかなか顔を上げ続けているわけにはいかなかったようでした。「今日自分自身がしたことを、どう評価する?」と訊かれて答えた "I lost." という一言が、誰よりもそれを発したロディック自身にとって今日ほど重かったことはなかったんじゃないでしょうか。
 その死闘を制して、前人未到のGS15タイトル到達&ランキング1位奪還を成し遂げたフェデラーにも、改めて敬意を表するとともにお祝いを申し上げたい。おめでとう、ロジャー! 結局、単核症にかかった以外には体の大きな故障もなく、ここまでGSに出続け勝ち上がり続け、積み重ねたGS21大会連続(だっけ?)SF以上進出という途方もない記録。それはプレイレベルの高さももちろんだけど、それ以上に体調管理の素晴らしさも物語っていると思います。ひそかに鉄人ですよ。
 あなたはまだまだやってくれる。誰も見なかった領域にずっと踏み込み続けていく姿を、もうしばらく見せてくれるはず。楽しみにしています。

 そしてラファ、早くツアーに戻ってこれますように。こういう終わりを迎えたウィンブルドンですが、ラファがいたらこの大会、もっとどうなっていたことやら。そう考えるとやっぱりラファがいないのは寂しい。モントリオールでの復帰を期しているとのことですが、そこでまたロジャーとの胃の痛くなるような勝負を見せてください。

 最後に。
 ロジャーにアンディ、素晴らしい試合をありがとう!


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