2月14日。
コスパで泳いだあと、12時過ぎにマウンテンで帰宅しようと思ったらポツリ…
雨…というより、半分雪みたいな小粒が空から舞ってきた。 急がなくっちゃ。。
家でお昼を食べた後、録画しておいた映画「沈まぬ太陽」を妻と一緒に見た。
4時間にも及ぶ長尺物なので一度には見られない。
主人公の渡辺謙がパキスタンに左遷され、さらにテヘラン赴任を命じられるところまで見てテレビを消し、時間が来たのでモミィを迎えに行く準備をした。まあ、準備といっても服を着替える程度のことだけど…
いつもは自転車で迎えに行くのだが、この日はそれは不可能だった。
午後から、これまで見たことのないような大粒の雪が降っていたのだ。
「気をつけてね~」と妻に見送られ、モミィの傘と合羽をバッグに入れて家を出る。
周りの風景が真っ白になりつつある。
傘の上にもたちまち雪が積もり、振るとバサバサッと雪が地面に落ちる。
こういう経験って、あまり記憶がない。
幼稚園は3時降園である。
いつもは園児たちが先生方と一緒に出てくるまで門の外で待っているのだが、きょうは園長先生が、迎えに来た保護者に、そのまま保育室の前まで行っいただいて結構ですから、ということだったので、運動場を横切り、そこまで歩いた。
3時にはまだなっていなかったが、すでに園児たちはリュックを背負って待機中だった。
担任の先生は僕の顔を見て、「モミィちゃ~ん」と呼ぶ。
「は~い」と元気良く飛び出してきたモミィを見ると、手に何やら布の袋を持っている。
他の園児たちはそんなものは持っていない。 うぅ~ … 悪い予感がする。
担任の先生が僕に、
「モミィちゃん、おしっこで濡らしてしまいましたので…」
幼稚園に予備のズボン下着や靴下などを置いてあり、モミィはそれに着替えたので、濡らした衣類をこの布袋に入れて持ち帰る、ということなのである。
「は…? お漏らし…ですか。 すみません。 いつもお世話かけてばかりで…」
しょっちゅう水道で着ている物をびしょびしょにし、お漏らしも過去に1度あった。
先生にも申し訳なくて、僕は恐縮するのだが、先生は笑っておられる。
とにかく、モミィは幼稚園でも何かと世話の焼ける子なんだろうな~と思う。
「おしっこは早い目に行くんやで、と、いつもおばあちゃんから言われてるやろ」
帰り道で僕がそう言うと、モミィは、
「あのな~、お猿さんのお面を作るのに夢中になってたから、わからんかってん」
そう言って、「雪、すごいねぇ~」 とそちらの方に気を取られている。
本人は少しも気にしていないふうである。
「お弁当、ちゃんと食べたかい?」 と、僕は話題を変えた。
「食べた。おいしかった~」 と言ってくれたまではよかったが、そのあと、
「お弁当のフタをあけたときに、お弁当がひっくり返ってん」 と言う。
「ひっくり返った?」
「うん。 お弁当のおかずもおにぎりも、ぜんぶテーブルの上に落ちてん」
「ぎょえ~。 ほんまかいな。 それで、どうしたん?」
「拾って、お弁当箱にむちゃくちゃやったけど、また入れてなぁ、…食べた」
とニコニコ笑いながら話すモミィに、僕は返す言葉がなかった。
「ようやるわ。 ほんまに」 ひとりでつぶやくだけだ。
雪の中を約15分。 滑って転ばないようにゆっくり歩いてわが家に着いた。
妻がドアを開けて外で待っていた。
家に入って着替えを済ませ、おやつを食べたあと、モミィは僕に、
「のんちゃん。これ、ハイ」 と、チョコレートを差し出した。
「きょうは、バレンタインデーで~すよぉ」
モミィが持っていたのはチョコレートボンボンだった。
おぉ、なつかしい。
最近、またこれが流行の兆しだとテレビでも言っていたっけ。
モミィから、バレンタインデーのチョコの贈り物だった。
これまでチョコレートをもらった中で、最も 「若い女性」 からのプレゼントだ。
「いやぁ~、プレゼント、くれるの? ありがとうね」
僕はモミィからチョコレートを受け取り、さっそく包装を解いて一個口に入れた。
噛んだチョコから、プチューと独特の風味を持つ液体が口の中に広がった。
中身は、昔のようにウィスキーではなく、ハイボールだ。
チョコの箱にも、大きく 「ハイボール」 と書かれている。
アルコール度、3%ちょっとで、往年の凄みはないが、軽妙な味わいである。
チョコレート好きのモミィは、僕の食べるのをじっと、欲しそうに見ていた。
「一個、食べてみる…?」と、いちおう愛想だけ言ってみる。
モミィは両手でバツ印をつくり、
「いらん。 だって、おサケが中に入ってるもん」
「ありがとうね。 来年はチョコじゃなく、中のおサケだけでいいよ。 あはは~」
と、おバカなことを口走りながら、2つめのボンボンを口に入れる僕であった。