地方議会議員はアホであっても目立たないけれど、市長がアホなら目立つ。
理由は簡単である。
地方議会議員は一つの自治体に何十人(またはそれに近い数)が存在する。
「玉石混交」という言葉があるが、議員たちの個人レベルもさまざまである。地域のために日夜奔走する熱心な議員もいれば、箸にも棒にもかからないアホ議員もいる。しかし人数が多いのでごちゃまぜになり、アホでもなかなか目立たないのである。
その点、市長はひとりだけだから、アホはよく目立つ。
鹿児島県阿久根市の竹原信一という市長がその典型例だ。
この市長の言動については、数年前からなにやかやと報道されてきているのでご承知の方も多いと思うが、僕も長く公務員生活を送って来たが、この竹原市長ほど私的感情を前後の見境もなく撒き散らし、かつ身勝手な理屈でやるべき義務を果たさず、市政を混乱させ続けている市長を、これまで見たことも聞いたこともない。しかも彼が、住民から人気があるというのだから、余計タチが悪い。
竹原市長は2008年夏に初当選したが、選挙活動中から自分のブログを更新していた。これは当時、公職選挙法に抵触する可能性があったが、それがその後の市長の進む道を暗示していたようでもある。
2009年1月のブログで竹原市長は「阿久根市議会で最も辞めてもらいたい議員は?」と題して市議の不人気投票を実施した。
これを新聞記事で読んだ僕は、思わず笑った。
最初は面白い市長だな~、と思った。
僕自身、38年間の市役所生活のうち26年間を議会事務局で過ごしているので、イヤな議員も大勢見てきた。不人気議員の投票なんかしたら面白いやろな~、と思っただけではなく、実際にこっそり「出来の悪い議員ベスト5」なんてものを作って、親しい職員に見せてゲラゲラ笑っていた時期もあった。
しかし、このあと、竹原市長の言動は、どんどんエスカレートする。
市職員の給与が高額であるとのことで、市長は各課ごとに職員の給与明細を掲示したところ、ある職員(係長)がそれをはがした。一部の市民が職員に無理難題を押し付け、最後は掲示板を指差し、「お前ら、月給泥棒だろ」などと悪態をつき、円滑な説明も出来なくなるなど、職務に支障が生じる…とのことで、はがしたのであろう。
給与が高ければ、減額する方向に持って行くの通常の方法だ。
公務員の給与が高い、減らすべき、というのはまともな主張である。
しかし…やり方というものがある。
市長がいきなりヒステリックに叫ぶと、職員の不安感は増幅する。
一方、市長の職員・議員に対する攻撃的姿勢は、市民にとっては心地よい。
2009年2月に市議会は市長不信任案を可決すると、市長は議会の解散権を行使して議会は解散。出直し市議選が行われたあと、新しく構成された議会は、再び市長の不信任案を可決し、ここで竹原市長は自動的に失職した。
しかし、出直し市長選挙に出馬した竹原市長は、また当選するのである。
職員や議員をボロカスに言う竹原市長は大衆受けをするのだろう。その市民の絶大な支持の元で、市長はいよいよ増長する。
掲示物をはがした係長を懲戒免職する。つまり、クビである。
係長の訴えを受けて鹿児島地裁がクビを取り消すよう判決を出す。
しかし、市長はブログに「中身のない判決」と書き、従わなかった。
徹底的に根に持つタイプ…と言えよう。
ブログで市長は今度は裁判官月給一覧表を揚げ、「おカネ持ちが判決」と書き、いかにも素人受けのするような「義憤」をぶち上げている。
そのブログで、市長は今度は調子に乗り過ぎて非難される。
2009年12月のことだ。
「高度医療のおかげで、障害者を生き残らせている」
と書いて、大きな問題になった。
議会は当然竹原市長を批判するが、悲しいかなその声には威勢がない。
はっきり言って、まるでだらしない議会なのである。
市長は「改革断行」のもとに、さらに強引な実力行使が目立つようになった。
言うことを聞かなければクビにする、と職員を脅し続ける。
自分は選挙で勝つ、という絶対の自信を持つ市長は、あらゆることに対立的姿勢を鮮明にし、反市長派排除のために議会を挑発し、市役所は重い空気に包まれ、市民たちには疲れが見えているという。
さらに…
自分の意に沿わない報道をする新聞・テレビのカメラが議会の傍聴席に入ると、
「あんなのが入っていれば、もう議会なんて出ないもんね」
ということで、竹原市長は本会議への出席を拒否し続けているのである。
そして、議会に諮らずに自分で勝手に「専決処分」を行う。
「専決処分」とは、ある案件を決定したいのだが、議会を開く時間がないときにやむを得ず市長が専決で行い、次の本会議で議会に報告をするという制度である。何でも専決をしていい、というわけではないのだ。それを議会に提案もせず、次々専決をするとは、それこそ、独断と偏見であり、議会無視、住民無視そのものではないか。
本来の政策を論じる場に出ることを拒否し、感情の向くままにルール違反を平気で繰り返すことが、住民福祉の向上につながるはずがない。
普通では考えられない行動だ。
いやしくも住民の代表として選ばれてきた議会が本会議を開くというのに、市の総括責任者である市長が出席しない(それも感情的な理由)というのは、にわかには信じ難いほど幼稚である。誰か、諌めたり進言したりする人間はいないのか?
「改革はいいけれど、混乱はもうたくさん」と、市長をずっと支えてきた後援会幹部も、最近はうんざり気味だそうである。
朝日新聞鹿児島総局の三輪千尋さんという若い女性記者が、先日「記者有論」というコラム欄でこう書いていた。
竹原市長は、信念を貫くつもりなら言葉を尽くし正々堂々と戦ってほしい。そうでなければ市民の心は離れていくだけだ。
繰り返し言う。アホの議員は目立たないが、アホの市長は目立つ。
阿久根市は、議会も市長もアホである、というのが本日の結論です。