僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

 耳鳴り・TRTのスタート

2008年01月25日 | 心と体と健康と

一昨日の23日、大手前病院へ行った。
待ちに待ったTRTの第1日目である。
TRTとは、Tinnitus Retraining Therapy の略で、耳鳴りの再訓練療法、あるいは順応療法、といったような意味なんだそうだ。ちょっとカッコいいなぁ。
…な~んて冗談を言っている場合ではない。これは、人生を賭けた勝負なんだ。

「キーン」と頭の中に響き渡る高周波の耳鳴りが発症して4ヶ月。
24時間休みなしに鳴り続ける。夜に眠るのも一苦労である。

これまで、内科、耳鼻科、循環器科、脳外科、心療内科などを渡り歩き、CTやMRIなどの諸検査で異常なしと言われ、ウツ病ではないか、などとも言われ、医師に処方してもらった血流を改善する薬や、「耳鳴りが治る!」というふれこみの市販の薬もさっぱり効かず、その後は精神安定剤のみを服用し、気分を落ち着かせるだけの日々が続いていた。

これといった治療法はなく、これを飲めば治る、という薬もない。
何をどうすればこの苦痛から逃れられるのか?
耳鳴りを消すことができるのなら、どんな苦労も厭わない…
そんな切実な気持ちも、冷酷な現実の前に、霞のように消し飛ばされる。

耳鳴りというのは、何とも形容しがたいほどに辛いものなのだ。

…とまあ、耳鳴りのことになると、つい愚痴っぽくなる。
それというのも、耳鳴りに一方的に支配されるばかりで自力でどうにもならず、とにかく「慣れること」「順応すること」が最も現実的な治療だと言われているように、すべてが受け身なのである。自分で積極的にこの症状と闘う、という医療システムが確立されていない分野なので、ただただ悩まされるだけで時間が過ぎる。
「順応」といっても、この大音響に順応できるかどうか、はなはだ心もとない。

そんなとき、僕の最後の切り札として存在していたのが、TRTであった。

TRTを実施しているのは、大阪でも限られた病院だけである。
僕が大手前病院を選んだのも、TRTが行われているのをネットで知ったからだ。

去年10月に大手前病院に行って、さっそく担当医にTRTのことを持ち出したら、「聴力や脳血管をちゃんと検査をしてからです」と軽くいなされてしまった。だから、今回、やっとTRTがスタートして、とてもうれしい。

予約日の1月23日午前11時。
大手前病院の「言語聴覚療法室」の前で座っていると、名前を呼ばれ、部屋に入った。そこで専門の技師さんが、そもそもTRTとはどういうものかを、一から丁寧に説明してくれた。

「この療法の目的は、耳鳴りを消すのではないですよ。あくまでも、耳鳴りに対する苦痛度を軽減し、順応させることを目的とするものです」
このことを、技師さんは何回も繰り返した。
僕は、ネットやTRTの冊子に何度も目を通しているので、技師さんの言うことは予備知識としてほぼ備わっており、話の内容はよ~く理解できた。

説明は1時間近く続いた。
説明の後、実際に耳に装着するTCIという機器を見た。
部屋の中には、技師さんのほか、背広姿のTCIのメーカーの社員がおり、その人が、機器を出して、僕の耳に装着してくれた。
前回も書いたけれど、TCIというのは、補聴器のような超小型の耳鳴り制御機器で、それを耳に装着して、そこから流れるザーザーという音を聴きながら、徐々に耳鳴りに対する意識を薄れさせていく、というものである。
一定の効果が出るまで、約2年かかるという。

僕は小さなその機器を、耳鳴りのきつい左耳の方につけたもらった。
ザーザーという雨のような? 滝のような? せせらぎのような? …なんだかそれらをごちゃごちゃにしたような音が流れてくる。それが、耳鳴りの音と混ざりあって、最初はちょっと変な感じである。

技師さんが、パソコンからの操作で、音の種類や音の高さなどをいろいろと変えてくれる。ザーザー音が大きくなると、当然耳鳴りも聞こえにくくなる。でも、ザーザー音の大きさが耳鳴りと同様か、あるいはそれ以上に大きくなってはいけないそうである。耳鳴りの半分から7分ぐらいの音が、治療に適しているそうだ。

「どうですか? これで耳鳴りはまぎれますか? この音はどうですか? もう少し大きくしましょうか? これでどうですか?」
ザーザー…。ザーザー…。ザーザー…。
いろいろと試してくれる。
このザーザー音を快く感じるか、不快に思うかによって、治療効果はまったく違ってくるという。なにしろ2年間ほど続ける訓練である。しかも、毎日8時間以上聴かなければならない。ザーザー音が不快であれば、そんな長期間、続くはずがない。だから、2種類のノイズ(ホワイトノイズ=音が少し荒いが、耳鳴りは紛れやすい。ピンクノイズ=音はソフトだが、耳鳴りが紛れにくい)を聴かされても、どちらを選ぶのか、迷いに迷う僕であった。結局、「心地よさ」を優先して、ピンクノイズを選んだ。

このTCIはデモ機として、2週間、貸し出してくれる。
僕はその期間、これを装着して生活をし、様子を見る。
2週間で耳鳴りが順応するとか、そういったものでは、もちろんない。
装着していて、心地よく感じるか、不快になるかをまず試すのだ。
2週間後に、正式に購入手続きをする、という段取りなのか。
ちなみにこの機器は、ひとつ6万3千円である。

1人の患者におよそ1時間ほどかけてくれたのはありがたい。
それだけでも、心が落ち着くというものである。
ただし、今回は初回だから、次回にはもっと短時間になるのだろう。
TCIを使い慣れてくると、ここへ来るのは2ヶ月に1度くらいでいいという。

さっそく、左耳にデモ機をつけて、病院をあとにした。

検査室ではザーザーがよく聴こえていたが、外に出て、雑踏に入り、地下街を歩いていると、ザーザーはまったく聴こえなくなり、耳鳴りだけがキンキン響く。これなら、つけてもつけなくても同じではないか…と、さっそく不安になってきた。
しかし、帰宅してTRTの冊子を読むと、
「通常、人との会話中は聞こえない位の、ただ静かな時に聞こえる位がちょうど良いとされています」とあり、安心した。
「聞こえない位静かな音」が適当らしい。かすかな音のために、聞こうという気持ちになるから良い、という。
このザーザー音のような無意味な音を聞き続けることによって、やがて脳は耳鳴り音よりもこのザーザー音を感知するようになり、耳鳴りへの意識が薄くなって、気にならなくなる…という仕組みなのだ。

なんと言っても、まだ、使い始めたばかりである。
どう展開していくのか予想できないが、あきらめず、最後までがんばろうと思う。


ところで…

その大手前病院で、時間が来るまで待合の廊下をうろうろしていたら、
「のんさんですか?」と女性から声をかけられた。
「え…? あぁっ…」と僕は息を呑んだ。
このブログにコメントを寄せてくださっているゆかりさんであった。

「でも、まぁ、よく僕だってことが、わかりましたねぇ」
と戸惑いながら言うと、ゆかりさんは、
「ブログの写真を、目に焼き付けてきましたから」
そう言って、さわやかに微笑まれた。

はあ~。このブログの写真は小さいけど、わかるんだなぁ…。
まぁ、写真と実物が同じようなものでよかった。
この写真は「厳選」した結果に載せたものだからね。あはっ。
「写真とずいぶん違いますねェ」ではちょっと格好つかんもんなぁ(笑)。

さて…
ゆかりさんも、僕の1ヵ月後に耳鳴りが発症し、紆余曲折を経てこの大手前病院で診察を受けておられた。そしてこの日からTRTを開始されたのだった。お互い、最初のTRTが23日であることはコメントのやりとりで知っていたけれど、ゆかりさんは9時からで僕は11時からだったから、すれ違いになるものと思っていた。

ゆかりさんは、もうTRTを終えられたあとだった。
横にお母さんがおられ、僕たちは11時前まで廊下に立ったまま話が弾んだ。

ゆかりさんのお母さんは、娘さんのことをとても心配しておられる様子だった。
それも当然であろう。ゆかりさんのような若い女性が、何の因果でこんな耳鳴りみたいなものに取りつかれたのだろう…。まことに不運で気の毒というほかない。
「ずっと落ち込んでいて、最近ようやく仕事にも出られるようになりました」
とお母さんがおっしゃった。
これまでのゆかりさんの3ヶ月の苦悩は、将来のある身として、僕なんかよりも、はるかに悲壮で辛いものだっただろう。

しかし、お母さんを交えての3人の立ち話の中で、「耳鳴りに効く」と聞けば、どんなことでも意欲的にチャレンジし、自分を奮い立たせて積極的に克服しようというゆかりさんの姿勢には、むしろこちらのほうが勇気付けられたほどである。

そんなことで…
TRTによって、一人でも多く救われたら…と切に願うばかりである。
まずもって、自分がこれに成功すれば、ほかの人たちに希望を与えられる。
そのためにも、挫折しないように、気長にこのトレーニングを継続していきたい。

 

 

 


 

コメント (18)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする