僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

 芸人もいろいろ

2008年01月23日 | 日常のいろいろなこと


 ~ タクシードライバー デ・ニーロ君の運転日誌 2 ~


デ・ニーロ君はタクシー運転歴も半年になり、今では土地勘も鋭くなった。
新米の頃は「○○ホテルへ行ってよ」と言われても、
それがどこにあるのか分からず、お客さんにいちいち聞きながら走った。
今でも「○○ビルへ!」と、地名ではなくビル名を言われると戸惑う。
それでも、毎日あちらこちらを走っていると、どんどん道や場所を覚えていく。
慣れてくると、この仕事もずいぶんやり易くなり、緊張も和らいでくるようだ。

有名人も、何度か乗せたことがあるという。

いつか、歌手の山崎まさよしが、肥後橋から乗ってきたそうだ。
行く先はナンバだったけれど、とても紳士的な雰囲気だったという。
ちなみに、デ・ニーロ君はカラオケが好きで、僕もいっしょに行ったりする。
そのときは、デ・ニーロ君に、山崎まさよしの
「One more time, One more chance 」
という歌を、リクエストして、歌ってもらう。
デ・ニーロ君はまだ35歳なので、こういう歌が得意である。
僕はこの歌を聴くのが好きなので、リクエストする。

え~っと、まぁ、それはそれとして…

関西以外ではあまり知られていないけれど、北野誠も、ウェスティンホテルからハートンホテルまで乗せたことがある。
この人は、お笑いタレントだけど、車の中では、ふだんのテレビの表情は見せず、なかなか真面目な感じで、礼儀正しい人であったという。

ウェスティンホテルからハートンホテルまでは、何通りかのルートがあって、
御堂筋を走ったほうが距離は近いが、混雑しているので時間がかかることがある。
なにわ筋は、距離は少し遠いが、時間的には早かったりするときがある。
「どちらを走りましょうか?」と、デ・ニーロ君が問うと、北野さんは、
「なにわ筋を行って下さい。それから、○○橋を超えて、××通りを行くコースで結構です。よろしく」
とても丁寧な人だった…と、デ・ニーロ君は北野誠の好印象を述べた。

おとなしいと言えば、今田耕司、ホテル阪急インターナショナルから谷町九丁目の交差点まで乗せたが、行儀良く黙って座っていたので、停車するまで、彼とはわからなかったという。
降りるとき、「領収証はどうしますか?」と訊いたら、
「『今田道場』と書いてくれる?」
と言ったので、そこで初めてそのお客さんが今田耕司とわかった…ということだ。
「せやけどなぁ、今田耕司くらいやったら、顔見たらわかるやろ?」
と、僕がつっこむと、デ・ニーロ君は、
「そのとき彼は風邪を引いてたみたいで、ゴホンゴホンと咳き込んでた。それに、マスクしてたから、顔がようわからんかったんや」
それを先に言え。
マスクをしていたら、わからんかったのも当然やろ。それに、風邪を引いて咳き込むくらいだから、おとなしく座席に座っていた…というよりも、ぐた~っとしていたんと違うんか?
なんのこっちゃ。

まぁ、芸人と言っても、タクシーの中ではたいてい普通のおとなしい人なんだ。

…そう思って聞いていたら、いやいや…絵に描いたような高慢ちきな芸人もいた。

最近乗せた芸人で、驚くほどえらそうにしていたのが1人いたという。
「誰や、その芸人ちゅうのは…?」と僕が訊いたら、
「池乃めだかや。あれはもう、メチャえらそうにしてるでぇ~」

吉本新喜劇でおなじみの、池乃めだか、である。
このおっちゃんが、ものすごくえらそうにしていたそうである。

ふつう、有名人が乗ってきても、デ・ニーロ君は声をかけない。
タクシーに乗るのはプライベートだから、それを尊重するのだ。
しかし、池乃めだかの場合、
「おぉ、これは池乃めだかセンセイですか? いつも拝見しています」
…と運転手から言われなかったのが気に入らなかったのか…?

日本橋1丁目から乗ってきた池乃センセイは、むすっとした口調で行く先を指定。行く先は塚本だったが、車内ではずっと不機嫌な様子で、塚本にさしかかると、
「あの赤い看板があるやろ。あそこや」と指を差した。
見ると、飲み屋らしい店が数軒並び、一番手前の店に赤い看板が掛かっていた。
その隣の2軒目店には、オレンジ色の看板が掛かっていた。
さらにその次の3軒目の店には、また赤い看板が掛かっていた。
赤・オレンジ・赤との3つの看板が掛かった飲み屋が3軒並んでいたわけだ。

「ええか。あの赤い看板のとこやぞ」
そう言われ、デ・ニーロ君は1軒目の赤看板の掛かっている店の前で停車した。
すると…
「違う。ここと違うがな。ナニ聞いとんねん。あの赤い看板やろっ」
と、池乃センセイは腹立たしそうに向こうを指差した。
「ほんまにぃ…、どこ見とんねん」と、池乃センセイは、デ・ニーロ君を責めた。

2軒目の店はオレンジ色の看板だったから、ここは素通りした。そして…
次の3軒目の赤い看板の前で車を停めたら、池乃センセイはまたまた激怒し、
「アホか。通り過ぎたやろ。何にもわからんやっちゃなぁ、こいつは」
センセイは、真ん中のオレンジの店を「赤い看板」と言っていたわけだ。
人を人とも思ぬような傲慢な物の言い方だったと言う。
「ほんまに、わけのわからん奴や…」
めだかセンセイは、さんざんデ・ニーロ君をなじりながら降りて行った。

池乃めだかと言えば…
極貧の少年時代を送った苦労人で人情味あふれる人、と言われていたが…。
少なくとも、デ・ニーロ君の前ではそうではなかったようである。
身体は小さいが、態度はデカい、というところであろうか。

「池乃めだかは最悪やった。あんなえらそうなお客、見たことないわ」
話しながら、またそのときのことを思い出したのか、
「あの顔がテレビに出てきたらチャンネル変える。二度と見たないわ」
普段は温厚で、怒ったことのないデ・ニーロ君であるが、このときばかりは、珍しく眉をひそめ、この吉本新喜劇の人気者を、ひどく嫌った。
よほど、不快だったのだろう。

お客さんもいろいろ、芸人もいろいろ。
タクシーの小世界は、やっぱり「人生劇場」である。

 

 

コメント (4)
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