電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

火坂雅志『天地人』上巻を読む

2007年09月18日 05時57分04秒 | 読書
先日、上杉と直江兼続ゆかりの史跡を探訪した米沢市の旅館で、NHK出版から出ている火坂雅志著『天地人』の上巻を読みました。なんでも、再来年の大河ドラマの原作となっているのだとか。いつも流行に数歩遅れる私には珍しい先物買いです。というのも、藤沢周平の『密謀』を読み、童門冬二『直江兼続』を読み、米沢市民の同僚が上杉鷹山とともに尊敬する、直江兼続という武将に興味を持ったからでした。

鎧兜の頭部に愛という文字を入れた武将、というだけで惚れ込むほど単純ではないつもりです。核弾頭に愛という文字を入れることの愚かさを思うまでもなく、人を愛するならば戦をしないのが本当だとは思います。ですが、おそらく戦国武将の考える愛は、現代人の考える愛とは違うだろう。では、写真の墓所に見られるように、後世の人々にも長く尊敬された直江兼続という人は、どんな武将だったのか。作家はどんなふうに考えたのか。

物語は、若い兄弟が川中島の合戦の主戦場、妻女山をたずね、武田の領地である善光寺で足軽たちに追われる場面から始まります。兄は樋口与六兼続、弟は与七実頼、絶体絶命の窮地を救ったのは、禰津のノノウと呼ばれる女忍たちでした。このあたりの場面設定は、もちろん作家の創作です。しかし、いきなり色っぽい場面も設定し、読者を巧みに物語に引き込んで行きます。

今川義元が桶狭間で織田信長に敗れると、武田信玄は三国同盟を公然と破り、駿河領へ侵入します。危機感を持った北条氏康は、かつての敵である越後の上杉謙信と同盟を結びます。人質として越後に送られた氏康の七男の三郎は上杉謙信の養子となり、三郎景虎と名乗ります。

樋口与六兼続が仕えたのが、謙信の姉・仙桃院と長尾政景との間に生まれた、謙信にとっては甥にあたる、上杉喜平次景勝です。景勝は無口で、叔父の謙信の前でも滅多に喋りません。兼続はその才能と人柄が謙信に気に入られ、謙信に私淑するようになります。三郎景虎と喜平次景勝との間に対立が生じたとき、望んだわけではありませんでしたが、兼続は争いの当事者となってしまい、蟄居謹慎を命じられます。謹慎中に亡くなった母の弔問に来た直江大和守景綱の娘・船と再会しますが、お船は上野の直江家から不釣合な婿養子を迎え、既婚者となっていました。帰路、お船の一行を見送る兼続らは、雪崩に巻き込まれます。このあたりの運命的な場面は、映像的にもドラマティックになることでしょう。

さて、謙信が跡継ぎを指名せずに急死したために、対立は表面化し、御館の乱が起こります。ここから、直江兼続の才能が、鮮烈に光りを放ちはじめます。

この上巻では、信長、光秀、秀吉、石田三成、徳川家康、真田幸村などの有名どころが顔をそろえ、歴史の転換点が、上杉の視点から描かれます。藤沢周平の『密謀』のような、ストイックな緻密さのかわりに、娯楽的な要素をふんだんにとり入れた、なかなか面白い本です。大河ドラマの原作としては、適している作品でしょう。

写真は、米沢市・林泉寺に今も残る、直江兼続夫妻の墓所です。墓石に三つの穴があるのは、いざ戦闘となったときに、銃眼となることを考えて作られたのだとか。うーむ、直江兼続、おそるべし。

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