電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

たくきよしみつ『3・11後を生きるきみたちへ』を読む

2012年07月15日 06時04分14秒 | -ノンフィクション
岩波ジュニア新書で、たくきよしみつ著『3・11後を生きるきみたちへ~福島からのメッセージ』を読みました。著者は、朝日新聞の be での連載などで名前は承知していましたが、著書は初めて読みます。福島県川内村に在住ということで、福島原発事故の体験記として興味を持ち、手にしたものです。

本書の構成は、次のとおりです。

はじめに
第1章 あの日、何が起きたのか
第2章 日本は放射能汚染国家になった
第3章 壊されたコミュニティ
第4章 原子力の正体
第5章 放射能より怖いもの
第6章 エネルギー問題の嘘と真実
第7章 3・11後の日本を生きる
あとがき

第1章は、3月11日の大地震の後、福島第一原発の非常用電源喪失のニュースから15日の爆発を契機に、福島県川内村から著者が車で避難する場面に始まります。当時の状況が、体験したことも併せて描かれます。
第2章は、放射能、放射性物質、放射線、外部被曝と内部被曝など、原子力に関する基礎知識です。説明は端的でわかりやすく、ジュニア向け新書という性格が現れています。
第3章は、川内村を中心として、テレビ映像では語られない、村人の本音を織り込みながら、コミュニティが壊されていく様子が描かれます。
第4章は、原子力発電の本質についてとともに、核燃料サイクルやプルサーマル計画と、原子力政策についての章です。福島県の前知事が、自民党・保守本流にいた人なのに、原発政策に抵抗を試みたら汚職疑惑で職を追われたことも書かれています。そうしたら、現知事は原発推進派として当選したことになりますが、なんと皮肉なめぐりあわせでしょうか。
第5章では、除染と除染ビジネスの問題点を指摘しつつ、国策としての原子力政策のこわさが述べられます。命の質とは、すなわち普通の生活の価値ということでしょう。安全な数値と引き換えに日常生活の質を失ってしまったら、価値ある生と言えるのか、ということだろうと思います。
第6章では、エネルギー問題について、通説となっているものの嘘を指摘します。例えば水素エネルギー。あるいは「再生可能エネルギー」という考え方、石油が枯渇すれば「自然エネルギー」も使えなくなること、などです。
第7章では、結論として、バランスのとれた生き方でマイナス成長時代を楽しみ、「田舎で起業」をすすめています。このあたりは、いかにも「たぬパック」著者らしいところでしょう。



著者は、二酸化炭素と地球温暖化についても、嘘だという考え方に立っているようですが、電力業界が後押ししていたからといって、地球温暖化まで否定してしまうのはいかがなものかと思わぬでもありません。しかしながら、全体としてはわかりやすく、考えさせられる本です。福島県の知事さんの、皮肉な運命のめぐりあわせなど、思わず考え込んでしまいます。

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