イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「教団X」読了

2018年01月09日 | 2018読書
中村文則「教団X」読了

「R帝国」の作者の代表作をもう1冊読んでみた。この2冊は表紙も似ているが、テーマも共通している。
そのテーマはふたつ。ひとつは、人が正しいと信じ込まされているものは本当に正しいことなのか。宗教や政府の思想コントロール、マスコミのプロパガンダによってバイアスをかけられているものではないのか。
もうひとつは先進国と言われている国の繁栄は別の国が搾取されている結果であるということである。

このふたつは一見共通点がないように思えるが、自分が幸せだと思いたい、しかし、その幸福が他国からの搾取のもとに成り立っているということを知ってしまうとそうは思えなくなる。だから人はそれに気付かないふりをしたい。それを気付かないようにさせてくれているのが宗教であり政府の思想コントロールであるというのがこの物語の趣旨であり。それに読者は耐えられるのかということを問われているような気がする。
これが「R帝国」と本書に共通しているテーマのように思えるのだ。ついでになんだか主人公(のひとり)の結末もあまりにも似すぎている。

これはフィクションの物語りではあるけれども、人は罪悪感から逃れたいという、そういう心は必ず誰しも持っていて、それは時として誰かに狙われやすいものである。霊感商法や宗教の勧誘ならまあ勝手にやってくれというところだが、これが国家レベルでやられているのだとしたらどうだろうか。外に敵を作って国内世論をひとつにまとめようとか、国内を二分することによって均衡を保とうとかいうのは、どうもそこいらじゅうの国々がやっていそうなものように思える。そうなってくると一体真実とはどこにあるのか、そんなものはどこを探してもないのではないかとなってくる。

この物語ではその真実を露骨にセックスに求めているというのはどうも理解に苦しむところではあるけれども人間の欲望やそもそも動物の本質、意識が除かれた部分の最後に残るのは食欲と性欲だけだというところだろうか。

それに加えて、人間の意識とは、神とは、宗教哲学とはということを、量子物理学の世界までからめて教祖に語らせている。ある書評に、そういう論理をまとめ、導き出しているこの本は将来において傑作とよばれるにふさわしい。みたいな書かれ方をしていたけれども、一般向け程度の宗教や量子論の本を読んだことがある人間ならだれでもその共通点に気づくだろうし、自分を取り巻くすべてのものは記号に過ぎない。周りのことに左右されずに自分の前にある道だけを信じて進めというメッセージだけだとしたら560ページあまりというボリュームはちょっと多すぎるのではないだろうか・・。
まあ、サスペンス小説としてはかなり面白いものではあると思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 加太沖釣行 | トップ | えべっさんと最後のジェダイ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

2018読書」カテゴリの最新記事