とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

四国遍路 (岩波新書)/辰濃 和男 (著)

2015-05-28 22:07:54 | 読書
四国遍路 (岩波新書)
クリエーター情報なし
岩波書店


内容(「BOOK」データベースより)
四国八十八カ所。金剛杖を手に、千数百キロをひたすら歩く。土地の人から受ける「お接待」が心にしみる。―人はなぜ四国をめざすのだろうか。いま、ひとりのお遍路として四国路をたどる著者の胸に去来する問いだ。人びとと出あい、自然の厳しさに打たれつつ歩む巡礼行を、達意の文章で綴る連作エッセイ。

先日、お遍路の師匠である“くーかいさん”に満願の報告に行ったのだが、興味深い本を持っておられたので、私も改めて読んでみた。

著者の辰濃和男さんは、朝日新聞の編集委員、論説委員を歴任し「天声人語」も担当されていたという。そんな人が書いた著作だから、読みやすい文章と豊富なボキャブラリーで楽しく読み進めることができた。これからお遍路を始めようとする人には、お遍路の素晴らしさを伝えるうえで大変参考になるといえるが、私のようにお遍路が終わってから、改めて読む者にとっても素晴らしい著作であった。著作の中に書かれている一つ一つの事柄が、全て手に取るようにわかる。ここは、こうだった。あそこは、そうだったと、行った時の情景が思い出される事ばかりだった。実際に自分の目で見て体験したことが、著者の卓越した表現でその時の情景を再び思い起こさせてもらう事ができた。

読んでいて、いろいろ共感できることがあった。例えば、歩く道の事についての件では、こんなことが書かれていた。「この国では歩くことがなんと卑しめられていることかと思う。昔の遍路にとっては、険しい山道は難所で、平らな路は息抜きだったろう。今は逆だ。平坦な国道が「苦」で、山道は「楽」である。」まさに、その通りだと思う。国道の歩道は、特に歩きづらい。微妙な傾斜や、上り下りが疲れた足には苦痛だった。それがいやで、なるべく山の遍路道を選んで歩いていたものだ。

また、こんな事も書かれていた。「遍路道を独りで歩いていると決して独りの力で歩いているのではないということにやがて気づく。靴がある。靴下がある。靴や靴下を作ってくれる人がいる。…山道がある。…山道を補修してくれた人がいる。…道しるべを付けてくれた人がいる。…そういういくつもの縁がひとりの人の歩みを支えてくれているのだ」。私も、700キロくらい歩いた靴の底を見た時、見事にすり減っていて、よくぞここまで耐えてくれたのかと、靴に感謝したいくらいに思った。長い時間、遍路道を歩いていると、道しるべを付けたり、山道を整備してくれた人たちのおかげでありがたいなあと何度も思った。一人で歩いていても、一人の力で歩いているのではないと気づかされた。すべての事に感謝したい気持ちになっていくものだ。

実際に自分の足で、お遍路をした著者だから、共感できるものが多いのだが、その体験記だけではなく、その寺や土地に語り継がれてる逸話、関連した書物の引用などを交えての考察もあり、お遍路を深く学ぶこともできる。「お遍路」の持つ意味合いや歴史を学ぶのにも最適の入門書だといえる。お遍路を終わってから読んでみても、やっぱりお遍路をしてよかったなあと思わせてくれた著作だった。