とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

図書館の魔女(上下) /高田 大介 (著)

2016-05-27 23:57:50 | 読書
図書館の魔女(上)
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講談社


図書館の魔女(下)
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講談社


上巻内容(「BOOK」データベースより)
鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声をもたないうら若き少女だった―。ファンタジー界を革新する大作、第45回メフィスト賞受賞作。

下巻内容(「BOOK」データベースより)
「ことば」を身につけゆくキリヒトと、「ことば」を操る図書館の魔女・マツリカ。二人だけの秘密が、互いの距離を近付けていく。だが、一方で、周囲の強国との緊張関係は高まるばかり。発言力を持つがゆえに、一ノ谷と図書館は国内外から牽制され、マツリカを狙う刺客まで遣わされる。迫る危険と渦巻く陰謀に、彼らはどう立ち向かうのか。2000枚の超弩級リブラリアン・ファンタジー!

この作品に出会えた事は、本当に幸運だったとしかいえない。たまたま読んだ週刊誌の書評欄に「図書館の魔女」が紹介されていたからだ。図書館と魔女という組み合わせが意外で、ファンタジー物が好きな自分としては、いたく興味がそそられた。さっそく、地元図書館のHPで検索すると、全く予約が入っておらず、すぐに借りることができた。しかし、借りてみて、その厚さは1冊で単行本2冊分もある大長編作品であった。上下2巻だから単行本4冊分といっていい。総ページは1450ページにも渡る。

著者は、高田大介氏で、現在はフランスの大学に籍を置く言語学者だという。この作品は、高田氏のデビュー作で、第45回メフィスト賞を受賞している。読み始めた当初は、こんな厚い本を読むのは一苦労だなあと思っていた。しかも、出だしは、鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトが、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになるまでのいきさつが延々と描かれている。さすが、言語学者の作品らしく難しい言葉遣いや漢字がいっぱい出てくる。このまま読み進んでいくことができるのだろうかと心配であった。

だが、読み進むにつれてそんな心配も無用になってきていた。何といっても登場人物のキャラクターが意表をついているのがいい。「高い塔の魔女」マツリカは、自分の声を持たないうら若き少女ながら、図書館のすべての書物に精通し、数多くの言語を解する世界一賢い人物であるのだ。しかも、その知識によってもたらされた策略を弄することで、自分の国はおろか、近隣諸国をも動かすことが出来る力を持っているのである。ただ、口がきけないため、手話を使わないと相手に言葉を伝えることができない。そこで、マツリカ専任の手話通訳者として選ばれたのがキリヒトという少年だ。だが、キリヒトは文字を書くことも読むこともできない。はたして、キリヒトは、マツリカが満足するようなお務めができるのだろうかというところから話が進んでいく。マツリカには、キリヒトが来る前からキリンとハルカゼという二人の女性司書がいて、マツリカの手話通訳をしていたのだが、そのスピードに満足できないマツリカは、キリヒトとの間で二人だけにしかわからない指話での会話を開発してしまう。握りあった手の指の動きで会話ができてしまうというのがすごい。キリヒトはマツリカの指の動きを一瞬で言葉に変えてしまうようになっていく。

上巻は、マツリカとキリヒトの胸キュンとなるほんわかな関係が、読んでいて心地良かった。マツリカは、周りから魔女と恐れられているが、決して魔法や呪術を使うわけではなく、気位は高いが年頃の少女らしさを兼ね備えた優しい少女でもあるのだ。しかし、物語はそれで終わるわけではない。下巻では、物語が大きく動いていく。ほのぼのとした日常の冒険の話が、やがて政治的駆け引きや近隣諸国の覇権争いの関わりへと繋がっていく。いよいよ「図書館の魔女」の本領が発揮されるのだ。こうなると、ストーリーの展開も目が離せない。マツリカの深謀遠慮で、敵対する大国同士を一つにまとめてしまうという件は、読んでいてもワクワクしてしまう。しかも、政治的な話だけではなく、ミステリー的な要素もいっぱい詰まっていて、ページをめくる手がなかなか止まらなくなっていた。

ファンタジーとはいえ、ストーリー的には現実の世界にも当てはまる内容で、それほど違和感はない、また、一人一人の登場人物のキャラクターもきわだっていて、魅力的な人物が揃っている。作者のデビュー作になるのだが、最初からこんな面白い作品をかけるなんと凄いとしか言いようがない。読み始めだけ戸惑ったが、物語の世界に馴染んでしまうと、どんどん引き込まれていった。ここ何年かでは、最も面白いと思った作品になった。しかし、本屋大賞にもノミネートされたことがなく、図書館の借り手がほとんど付いていないというのはどういうことだろう。あまりにも分厚い本をみて、読むのをためらってしまった人が多いのだろうか?書店員の目は節穴としか言いようがない。最近、文庫化され、全4巻に分割して発売されるようになり、読みやすくなったようだ。今後も、続編が出てもおかしくない内容だけに、キリヒトとマツリカの登場を期待したい(既に、「図書館の魔女 烏の伝言」が刊行されているが、マツリカが最後にちょっと登場するだけで、キリヒトは登場しない)。

『沈まぬ太陽』山崎豊子/著

2016-04-28 19:00:39 | 読書
沈まぬ太陽 文庫 全5巻 完結セット (新潮文庫)
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山崎豊子といえば、『白い巨塔』『華麗なる一族』『大地の子』『沈まぬ太陽』等、実在する事件や社会問題、権力の暗部などを扱った作品が多く、代表作のほとんどが映画化やドラマ化されている大ベストセラー作家だ。作品の名前を聞けば、ほとんどの人が聞いたことがあるはずで、作品を読んでいる人も多いだろう。

今まで、このような大ベストセラー作品は、あえて読んでこなかった私だが、『沈まぬ太陽』が、来月からWOWOWで開局25周年記念として全20話で放送されることになったと知って驚いた。この作品は、日本企業の労使問題や日航機墜落事故を一つのモデルとして描かれたもので、作品発表当時は日本航空の反発が大きく、2009年に映画化されたものの完成させるまでは、大変な苦労があったらしい。ましてや、テレビドラマ化なんてスポンサーのシガラミがある民放では、まず映像化不可能だとさえ言われていたという。それが、全20話という長さで、完全ドラマ化されるというのは凄い。こういった社会派ドラマを積極的に制作しているWOWOWのドラマは、良質な作品が多いのも事実だ。

まだ、ドラマの放送は先だが、やはり原作を改めて読んでみたいと思い、第1部の「アフリカ編」から読み始めている。なぜ最初が、アフリカというと、主人公の恩地元が、アフリカに左遷され象狩りをしているところから始まるからだ。国民航空ナイロビ営業所に勤務する恩地は、なぜアフリカにいるようになったかが、回想形式で描かれる。恩地は、国民航空の労働組合委員長として友人の副委員長の行天四郎とともに、死亡事故が起きるほど劣悪な労働環境の改善を目指し経営陣と激しく対立する。その結果、組合委員長に任期を終えたあと、「現在の流刑」にも等しい左遷人事に晒されカラチ、テヘラン、そしてナイロビへと海外の僻地に足掛け8年に亘る海外赴任が続いている。その間、母親と死別、家族と別れる等、不遇なサラリーマン生活が続くが、友人の行天四郎は、価値観の違いから恩地と袂を分ち出世街道を進んでいく。信念を曲げずに生きていくことが、いかに大変なことかという事を思い知らされる内容だ。

第2部「御巣鷹山篇」では、国民航空機が起こした「国航ジャンボ機墜落事故」の遺族対応係として家族を事故によって失った人々へ誠実に対応する恩地の姿と遺族の悲しみが描かれ、第3部「会長室篇」では、国民航空の再生措置として関西の紡績会社会長、国見正之が会長に据えられる。国見会長は誠実に仕事をこなしてきた恩地を会長室の部長に抜擢する。恩地は会社の上層部と戦い、社内の腐敗体質の様子が描かれていくという。

全て読み終わったわけではないが、サラリーマンにとっては、非情でやりきれない内容が続くようだ。決してハッピーエンドでは終わるような話ではないだろうが、現代の私たちに「働くこと」「生きること」の意義を問いかけるものになるに違いない。WOWOWでは、恩地元を上川隆也、行天四郎を渡部篤郎が演じ、その他豪華キャストが出演する。一通り原作を読み終えた上で、ドラマを楽しんでみたいと思っている。

2016年本屋大賞受賞作の予約が激増

2016-04-15 19:27:51 | 読書
12日に2016年本屋大賞の発表があった。
結果は、以下のとおりだ。

大賞 『羊と鋼の森』 宮下奈都(著)
2位 『君の膵臓をたべたい』住野よる(著)
3位 『世界の果てのこどもたち』中脇初枝(著)
4位 『永い言い訳』西川美和(著)
5位 『朝が来る』辻村深月(著)
6位 『王とサーカス』米澤穂信(著)
7位 『戦場のコックたち』深緑野分(著)
8位 『流』東山彰良(著)
9位 『教団X』中村文則(著)
10位 『火花』又吉直樹(著)

1月にノミネート作品が発表された時、面白そうと思った6作品をまず図書館の予約をしておいた。
予約してあるのは、『羊と鋼の森』『永い言い訳』『朝が来る』『王とサーカス』『流』『教団X』だ。
その時点でも、『朝が来る』がダントツの人気だったのは、静岡本屋大賞を受賞していたからだろう。
それ以外では、『王とサーカス』『流』『教団X』等の人気が特にあった。
やはり、既に売れ行きがダントツだった『火花』や『朝が来る』は、あえて書店員が推さなかったのは理解できる。
ただ、『羊と鋼の森』が大賞になるとは思いもよらなかった。

残念ながら、まだどれも読めていない。
しかも、『羊と鋼の森』は、大賞の発表の後、予約数が急増している。
12日の発表前と比べると3日間ほどで4倍くらいに増えているのだ。
さすがに本屋大賞のPR効果は大きいものである。
書店でも、山積み状態になっているはずだ。
どの作品も、手元に来るのは、まだまだ数ヶ月先になりそうだ。

次は“辻村深月”に挑戦

2016-03-05 21:19:44 | 読書
このところの私の本の読み方は、気にいった作家の作品をとことん読みこなすというスタイルだ。東野圭吾から始まり、有川浩、松岡圭祐、伊坂幸太郎、西尾維新等の作品を読んできた。これらの作家は、新作が出たらまず読む予定だが、次に重点的に読むのは誰にしようかとか考え、最近書店でも名前を見にする事が多くなった“辻村深月”にすることにした。

辻村深月という作家は、『冷たい校舎の時は止まる』でデビューし、2012年に『鍵のない夢を見る』で147回直木賞を受賞している。また、2015静岡本屋大賞を『朝が来る』で受賞し、本家の本屋大賞でも、何度もノミネートされている作家である。読んだことのあるのは、2015本屋大賞3位となった『ハケンアニメ!』1冊だけであるが、アニメ業界で奮闘する3人の女性の視点で描かれた作品で、『書店ガール』を彷彿させ、頑張る女性の姿に好感が湧いた。

しかし、それ以外の作品は、まったく読んだことがなくどんな作風かもよくわからないので、いろいろ検索してみたら、いろんな賞をとっておりファンも多いようだ。作品にシリーズ物はないようだが、作品によっては、登場人物が重複しており、作品ごとの相関があるらしい。したがって、読む順番を間違えると、ややこしくなるらしく、読む順番は推奨する順番がいいという。公式に言われている順番は下記の通りだ。
1『凍りのくじら』
2『スロウハイツの神様』
3『冷たい校舎の時は止まる』
4『子どもたちは夜と遊ぶ』
5『ぼくのメジャースプーン』
6『名前探しの放課後』
7『ロードムービー』
8『光待つ場所へ』
9『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

ということで、まず『凍りのくじら』から読み始めた。ところが、この作品はかなり暗い内容だ。主人公の女性に付きまとう危ない青年の行くすえが、暗すぎた。でも、最終的には救われる内容だったので、ホッとした。何でも、この作品を最後まで読めなければ辻村作品は合わないと思ったほうがいいらしい。何とか、最後まで読むことが出来たので、今後の作品を楽しみに読み進めていくつもりだ。

人魚の眠る家/東野圭吾著

2016-03-04 21:09:14 | 読書
人魚の眠る家
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幻冬舎


内容(「BOOK」データベースより)
娘の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束した仮面夫婦の二人。彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前だった。娘がプールで溺れた―。病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。過酷な運命に苦悩する母親。その愛と狂気は成就するのか―。

久しぶりに東野圭吾作品を読む機会が巡ってきた。新作の「人魚の眠る家」だ。この作品は、今までの東野作品とは、一味違う内容だった。当初は、脳の代わりに電気的刺激を与えることで筋肉を動かす技術(コンピュータプログラムとハードウェア機器)やAI横隔膜ペースメーカーに依る人口呼吸といった最新医療技術が物語に導入され、やはり東野圭吾らしい医療サスペンス物なのかというイメージであった。しかし、読み進めるにしたがって、それは単なる導入の一部で、作者の訴えたい本筋の添え物であるに過ぎなかった。

この作品のテーマは、子供の臓器移植をどう考えたらいいのかを問いかける内容である。“脳死”や“臓器移植”に関する日本の現状や海外との違いも明らかとなり、いろいろな問題がある事を思い知らされる。募金をして大金を集め、海外にわたって子供の臓器移植を行おうとする親の話も盛り込まれているが、果たしてそれが美談だけで済ませられるかということも考えさせられる。大金があれば、その子供は助かるが、臓器移植を待っているその国の子供たちの臓器を奪っていることにもなりかねないのだ。物事には、一方からではなく、別の面から見ると全く違う捉え方をされてしまうという事を思い知らされる。

そして、幼い子供が脳死とされる状態になった場合、親は本人に代わって臓器を提供するかどうかを決めねばならない。子供の死をただ待つのか、移植を承諾して臓器だけでも生かしてあげるのか、誰しもが当事者になったら深く苦悩するに違いないテーマだ。この作品では、脳死に近い状態になった子供を最新の医療技術で、まるで生きているかのように育てることが果たしていいのかどうかを問いかける内容でもある。

ワクワクドキドキするような内容とは言い難く、終始重いテーマにこの物語は、どう終わるのだろうかという不安のまま読み進んだ。「人の死」というものを決めるのは法律的には医者となっているが、それを受け入れる家族は理屈で分かっていても、感情的には簡単に受け入れることはできない。そんな、母や家族の葛藤を押しつけがましでもなく、理屈がましでもなく、うまくまとめ上げている点は、さすが東野圭吾である。「脳死」「母の愛情」「臓器移植」等簡単に判断できない重い問題について、じっくり考えさせられた作品だった。


西尾維新を読みつくす

2016-03-03 23:03:08 | 読書
『掟上今日子の備忘録』をはじめとする西尾維新の『忘却探偵シリーズ』を読み始めたのをきっかけにして、このところずっと西尾維新の作品を読み漁っていた。それまで一度も読んだことがなかったが、その可笑しな作風に魅せられて、ついつい嵌ってしまったようだ。図書館で借りられる全作品のうち、約80冊くらいは読んでしまった。残っているのは新刊で予約が混んでいて順番が回ってこない数冊だけなので、ほぼ完了したと言っていい。

この作家のジャンルとしては、ミステリーぽいライトノベルといえるだろうか。大きな特徴としては、言葉遊びみたいな部分がやたらに目立つ。状況を表す言葉が、一つだけではなく三つくらいは必ず書き加えられており、その毒のある表現が可笑しく、言葉を自由自在に操る面白い作家だというのが気に入り、嵌ってしまったのかもしれない。はじめの頃は、「物語シリーズ」から入って行ったのだが、荒唐無稽というより、あまりにも馬鹿馬鹿しい内容に、読むのをやめようかと思ったくらいだったが、巻を重ねるごとにその世界観にのめり込んでしまい、ついには抜けることができなくなってしまった。作品の中には、「戯言使い」なる人物が登場するものがあり、まさに作者そのものが「戯言使い」なのかもしれない。

また、各作品に共通するもう一つの特徴としては、登場するキャラクターは、ほとんど女性だ。それも、幼児、小学生、中学生、高校生といった若い女の子ばかり。わずかに登場する男性も、少年といった年齢で、周りは女性ばかりというハーレム状態の設定が多い。そして、各キャラクターの名前が奇妙奇天烈だというのも大きな特徴だ。例を挙げれば、化物語の阿良々木暦(あららぎこよみ)とか、戯言シリーズの零崎人識(ぜろざきひとしき)等、その可笑しなネーミングセンスは、他の作家の追随を許さない。また、登場人物が簡単に殺されてしまったり死んでしまうというのも、常識ではありえない話なのだが、怖いとか不気味という感覚にはならないのが、この作家の不思議な特徴だ。ただ、人によっては、好き嫌いが大きく分かれるかもしれない。

以下、主要なシリーズの概要をまとめてみた。

「戯言シリーズ」
戯言遣い(いーちゃん)と工学の天才・玖渚友を中心に様々な事件が起こるミステリー。 全9巻で、言葉遊びが最も特徴の作品。途中からバトルシーンがあったりして、萌えキャラが次々にあっさりと死んでいく。

「人間シリーズ」]
戯言シリーズと同一の世界を舞台とするスピンオフ作品。戯言において主人公いーちゃんの「表裏」とされ、"殺し名"として戯言にも名前が登場していた『零崎一賊』の零崎人識たちの物語。

「りすかシリーズ」
魔法が存在する日本を舞台に、魔法を使えない普通の人間である主人公の少年・供犠創貴と魔法使いの少女・水倉りすかの2人が、りすかの父親・水倉神檎を追う中での戦いと冒険を描いている。既刊3巻で、最終巻はまだ刊行されていない。

「物語シリーズ」
21世紀初頭の日本の田舎町を舞台とした、阿良々木暦(あららぎこよみ)と彼に出会った少女たちの、「怪異」に関わる不思議な物語。怪異と戦って倒すような展開はほとんど無く、怪異の出現した原因を探ったり、謎を解いて事件を解決するというのがストーリーであるが、コメディ要素が強く押し出されており、少女のボケに対して暦がツッコミを入れる夫婦漫才のようなギャグが延々と続くので、話がなかなか前に進まない。

「刀シリーズ」
講談社BOXのメイン企画「大河ノベル」の2007年作品として、12か月連続で発売された時代劇作品。毎月刊行するなんて、凄い速さで書かれた作品ではあるが、西尾作品の中では、一番面白かった。内容は、「刀を使わない剣士」と、それぞれある1つの能力に特化した12本の「変体刀」と呼ばれる刀を持った者たちの戦いを描いたもの。

「伝説シリーズ」
”西尾維新史上、最長巨編”がキャッチコピーで、1巻あたり500ページにも及び現在7巻まで刊行されている。人類を抹殺せんとする「地球」と、それを阻止しようとする人々の戦いをテーマにした長編小説。「大いなる悲鳴」と呼ばれる大災害により人類の3分の1が死に絶えた世界を舞台に、科学や魔法を用いて「地球」へ対抗しようとする人々の姿が描かれる。

「忘却探偵シリーズ」
寝ると記憶がリセットされる「忘却探偵」の掟上今日子が、依頼人から持ち込まれる事件を「ほぼ」1日で解決に導いていく推理小説。昨年は、テレビドラマ化されているので知っている人も多いはずだ。

2016年本屋大賞ノミネート作品発表

2016-01-20 19:31:44 | 読書
全国の書店員の投票で決まる2016年本屋大賞のノミネート作品が、今日公表された。公表されたのは10作品で、昨年、芥川賞を受賞した又吉直樹の「火花」や、直木賞を受賞した東山彰良の「流」なども含まれている。大賞が決まるのは、4月12日になるそうだ。

ノミネート作は以下の通り。

辻村深月「朝が来る」(文芸春秋)
米澤穂信「王とサーカス」(東京創元社)
住野よる「君の膵臓をたべたい」(双葉社)
中村文則「教団X」(集英社)
中脇初枝「世界の果てのこどもたち」(講談社)
深緑野分「戦場のコックたち」(東京創元社)
西川美和「永い言い訳」(文芸春秋)
宮下奈都「羊と鋼の森」(文芸春秋)
又吉直樹「火花」(文芸春秋)
東山彰良「流」(講談社)

まだどの作品も読んではいないが、読みたいと思って既に図書館に予約中の作品は3つある。辻村深月「朝が来る」、中村文則「教団X」、東山彰良「流」の3作品だが、すでに予約が集中していてなかなか順番が来ない。

それ以外は、よく知らなかったが、内容を調べてみた結果、米澤穂信「王とサーカス」、中脇初枝「世界の果てのこどもたち」、西川美和「永い言い訳」、宮下奈都「羊と鋼の森」等を予約候補に入れておきたいと思った。

いずれにせよ、本屋大賞の候補に挙がっただけで、本屋に並ぶ量は増え、図書館の予約も増えてくる。早めに予約しておきたいが、予約の枠が目一杯になっていて新しい作品を予約できないのが辛いところだ。

掟上今日子の備忘録/西尾維新

2015-12-04 21:59:43 | 読書
掟上今日子の備忘録
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このところ西尾維新の作品を読み込んでいる。まず手始めに読み始めたのは、化物語を始めとする「物語シリーズ」だ。6巻ほど読み進んだ頃、忘却探偵シリーズの「掟上今日子の備忘録」の順番が回ってきたので、気分を一新して一気に読み込んでしまった。

物語シリーズは、「怪異」をモチーフにした作品ではあるが、怪異との戦いをメインに描いたものではなく、怪異の出現した原因を探り、謎を解くという内容だ。しかし、ホラーっぽい部分はほとんどなく、コメディ風のタッチで、お笑い漫才を読んでいるようなギャグが延々と続く。第1作を読んだ時は、あまりのバカバカしさにこの人の作品にはついていけないと思いそうになったが、気を取り直して第2作以降も読んでいくうちに西尾ワールドに毒されてしまったようだ。その後も、なんとなく続けて読み進んでいる。

そんな西尾作品の中で、この忘却探偵シリーズは少し趣が違うようだ。最近、テレビ化もされ新垣結衣主演で原作もかなり売れているらしい。本屋に行っても、この作品は山積みされている。はっきり言って、原作のイラストが可愛いから目に付くことは確かだ。

主人公は、掟上今日子(おきてがみ きょうこ)。置手紙(おきてがみ)探偵事務所の所長であり探偵である。髪の毛は、総白髪で眼鏡をかけた美女とされている。理由はよくわからないが、ひと晩眠るとその日の記憶を失うため「忘却探偵」と言われている。とにかく一旦眠ってしまったが最後、その日の記憶を失ってしまうという笑える設定である。その為、彼女が手がける事件は、その日のうちに解決しなければならない。基本的に1日以内で解決できない事件は引き受けず、この体質ゆえに事前の依頼予約も受け付けないが、引き受けたからには必ず解決してしまうことから「最速の名探偵」とも言われている。また、依頼主にとっても、重要な秘密を1日経つと忘れてくれるので秘密保持といった点からも、依頼しやすいというわけだ。

記憶を失うというのが、どのくらいの範囲までなのかというのがよくわからないが、目が覚めると自分の名前や職業すらも忘れている為、記憶のバックアップ機能として、手足や腹に自分自身の情報や事件の内容を彼女自身がマジックペンで書いているとされている。とにかく、事件の解決は、素晴らしく早い。数あるミステリー小説の中でも、このシリーズは最速の事件解決物だ。しかも、そのトリックは、実によく考えてある。物語シリーズとは打って変わり、章ごとで話が完結するので読みやすい。

そして、事件にやたらに巻き込まれ犯人扱いされやすいという体質の隠館厄介(かくしだて やくすけ)というキャラクターの存在も面白い。西尾作品に登場するキャラクターの名前は、どちらかというと悪ふざけっぽい名前ばかりだ。よくもこんな名前を考えたなあと、ある意味感心してしまう。彼は、身長が190センチメートル以上もある巨人だ。しかし、幼い頃からなぜか数多くの事件に巻き込まれ、なおかつ犯人と疑われるため気弱な性格になってしまっている。悪い事をしたり嘘をつくことができないので、防衛のため、様々な探偵に助けを求め、掟上今日子もその中の1人である。彼は、今日子に好意を寄せているのだが、彼女に依頼するたびに「初めまして」と挨拶されることに毎回少なからずショックを受けている。このあたりの件は、忘却探偵と接する人たちのギャップとして面白い。

掟上今日子の寝室の天井には、黒いペンキで太々と荒々しく、彼女の字ではない何者かの筆跡で「お前は今日から、掟上今日子。探偵として生きていく。」と書かれている。このシリーズは、まだまだ続いていくようだ。今後は、事件解決の話が延々と続くのではなく、彼女自身の秘密が解明されるような展開になっていきそうだ。3階建てのビルに一人で事務所を構え、身内の存在も明らかでない彼女の正体が、明らかになっていくのを見届けたくて、さらにこのシリーズも読み進んでいきたくなった。

イニシエーション・ラブ/乾くるみ著

2015-11-18 21:11:17 | 読書
イニシエーション・ラブ (文春文庫)
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文藝春秋


図書館で大分前に予約してあった『イニシエーション・ラブ』がやっと順番となり、一日で読み終えた。内容は、1980年代後半の静岡市と東京を舞台に男女の出会いと別れを描いたもので、Side-AとSide-Bという2編に別れた構成となっていた。なぜ、Side-AとSide-Bという2編に別れていたのかというのは、最後の一行を読むとその意味がじわっと分かってくる。

この作品を読んでみたいと思ったのは、そのキャッチコピーが「読み終わった後は必ずもう一度読み返したくなる」と銘打たれていたことだ。また、今年の5月には、松田翔太と前田敦子主演で映画化公開もされている。映画のキャッチコピーも「最後の5分、全てが覆る。あなたは必ず、2回観る。実写化不可能といわれた小説が、ついに映画化」という思わせぶりな言葉に、かなり気になっていた作品でもあった。映画を見てなかったので、早く原作を読んでみたかったのだ。

たしかに、そのキャッチコピーは大げさではなかった。原作の最後の一行で、“何っ!これは”とショックを受けた。読者をずっと騙してきた作者のテクニックにしてやられたという驚きで一杯になった。間違いなく「必ずもう一度読み返したくなる」はずである。ネタはバラシたくないが、単なる恋愛小説ではなく、最後の一行があることでミステリーといってもいい。

それにしても、内容が分かると、この作品の映画化は不可能のように思える。映画を見ていないので何とも言えないが、不可能と思える部分をどのように映画で表現したのかも気になった。そのうちWOWOWあたりでやるだろうから、じっくり見てみたいものだ。因みに『イニシエーション・ラブ』とは、“通過儀礼の恋愛”という意味だという。

勾玉シリーズ/荻原規子著

2015-10-21 23:00:22 | 読書
空色勾玉 (徳間文庫)
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徳間書店


白鳥異伝 上 (徳間文庫)
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徳間書店


薄紅天女 上 (徳間文庫)
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徳間書店


上橋菜穂子、小野不由美から始まった日本のファンタジー作家読み比べは、荻原規子までたどり着いた。上橋菜穂子の守り人シリーズや獣の奏者などは圧倒的に面白かった。また、小野不由美の十二国記シリーズは、三国志や水滸伝のような古代中国を連想させる時代背景でスケールの大きい作品だった。ただ、最後によんだ「残穢」という作品は、書評を書くのも躊躇したくなる怖い内容だっただけに、これ以上は踏み込みたくない。そして、今回、荻原規子の代表作である勾玉シリーズの『空色勾玉』(そらいろまがたま)、『白鳥異伝』(はくちょういでん)、『薄紅天女』(うすべにてんにょ)の3部作をすべて読み終えたところだ。

勾玉シリーズの『空色勾玉』は、荻原規子のデビュー作となった作品で、日本神話をモチーフにしたファンタジー小説である。以後の『白鳥異伝』・『薄紅天女』と合わせて勾玉三部作、勾玉シリーズと称されており、順番に読んだほうが物語の厚みが出てくるはずだ。いずれも、勾玉を持つ者の不思議な力をテーマにし、日本書紀や古事記を連想させるが、読みやすくワクワクするほど面白い作品であった。

『空色勾玉』作品内容(「BOOK」データベースより)
輝の大御神の双子の御子と、闇の氏族とが烈しく争う戦乱の世に、闇の巫女姫と生まれながら、光を愛する少女狭也。輝の宮の神殿に縛められ、地底の女神の夢を見ていた、〈剣の主〉稚羽矢との出会いが、狭也を不思議な運命へと導く…。神々が地上を歩いていた古代の日本を舞台に、絢爛豪華に織り上げられた、人気沸騰のファンタジー。

古事記や日本書紀をモチーフにした作品で輝の神と闇の女神の二神は、イザナギ・イザナミを連想させる。また、照日王、月代王、稚羽矢は、アマテラス、ツクヨミ、スサノオの三姉弟を想起させ、古代日本の神々が人間くさく親しみやすい文体で書かれているので、古事記を読むような難解さはない。豊葦原と呼ばれる場所がどこなのか気になった。

『白鳥異伝』作品内容(「BOOK」データベースより)
双子のように育った遠子と小倶那。だが小倶那は“大蛇の剣”の主となり、勾玉を守る遠子の郷を焼き滅ぼしてしまう。「小倶那はタケルじゃ。忌むべきものじゃ。剣が発動するかぎり、豊葦原のさだめはゆがみ続ける…」大巫女の託宣に、遠子がかためた決意とは…?ヤマトタケル伝説を下敷きに織り上げられた、壮大なファンタジーが幕を開ける!日本のファンタジーの金字塔「勾玉三部作」第二巻。

「勾玉三部作」の中では、最も長編だ。ヤマトタケル伝説を下敷きにしたということで、日本全国に散らばった5つの勾玉を探し集めるというのが面白い。勾玉が全部揃うととてつもない力を得られるというのが、いかにもファンタジーっぽくっていい。ドラゴンボールとか、八犬伝でも玉を集めると大きな力が得られるお話だったが、全部揃ったらどうなるのだろうかというワクワク感が良かった。また、登場人物も魅力ある人物が多い。

『薄紅天女』作品内容(「BOOK」データベースより)
東の坂東の地で、阿高と、同い年の叔父藤太は双子のように十七まで育った。だがある夜、蝦夷たちが来て阿高に告げた…あなたは私たちの巫女、火の女神チキサニの生まれ変わりだ、と。母の面影に惹かれ蝦夷の地へ去った阿高を追う藤太たちが見たものは…?“闇”の女神が地上に残した最後の勾玉を受け継いだ少年の数奇な運命を描く、日本のファンタジーの金字塔「勾玉三部作」第三巻。

前作からさらに時代が遡り、奈良時代末期のお話となる。更級日記(特に竹芝伝説)とアテルイ伝説をモチーフにしたとされ、征夷大将軍となった坂上田村麻呂やのちの空海が登場してくるのも興味深い。京の都に跳梁跋扈する怨霊を倒すには、やはり「明玉(勾玉)を持つ天女」の力が必要となるのだ。双子のように育った阿高と藤太、兄を怨霊から護るため男装して都を出た少女・苑上(そのえ)が、それぞれの目的を果たせるのかが気になって最後まで読み進んでしまう。