とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

海賊とよばれた男 /百田直樹著

2013-09-26 22:29:20 | 読書
海賊とよばれた男 上
クリエーター情報なし
講談社


海賊とよばれた男 下
クリエーター情報なし
講談社


やっと読むことができた。超ベストセラー作家百田直樹の話題作「海賊とよばれた男」を図書館から借りることができ、上下巻を一気に読み終えた。

この作品は、小説という形をとっているが、すべて実在した人物がおり、描かれた出来事は全て事実というから驚きだ。主人公の国岡鐵造は出光興産創業者の出光佐三氏がモデルになっており、まさしく出光佐三氏の伝記小説といってもいい。上下巻で合わせて700ページ近い作品だが、最初から最後まで全く飽きることなくぐいぐいと読み進むことができた。

国岡鐵造は、父親から「一生懸命働くこと」「質素であること」「人のために尽くすこと」の三つを厳しく教え込まれたという。その教えは、生涯変わることはなかった。創業した国岡商店においては、店員(社員ではなく店員と呼ぶ)すべてが店主(社長ではなく店主)の家族であり、全員を信用しているからタイムカードや定年はなく、どんな店員でも解雇することはなかったという。その理念は、大企業になっても変わらず、店が傾きそうになった時でも自分の資産を削っても店員には給料を払い、店員が出兵している時でさえ、家族に給料を払い続けたというから驚きだ。過去にも現在にも、こんな経営者がいただろうか?労働組合もない会社ながら、店員は店主を親のように慕い、店主のためならばと身を粉に働いたというから、よほど人間的魅力にあふれた人物だったのだろう。国岡商店には、いろんな圧力や困難が降りかかってくるが、その都度、国岡鐵造の確たる信念のもと、重大な決定がなされ、幾多の困難に打ち勝っていく様は、痛快で気持ちがいい。こんな指導者が、一企業としてではなく、日本の政治の中心にいたら日本のこれからの行く末も大きく希望が持てただろうと思うのだが、政界にはそんな人物が見当たらないのが、残念なところだ。

後半では、世界をあっと言わせた「日章丸事件」を題材にとった話がメインとなる。世界一の埋蔵量を誇る油田をメジャーのひとつアングロ・イラニアン社(現BP)に支配されていたイランは、国有化を宣言したため、国際的に孤立し、経済封鎖で追いつめられる。日本が発展するためには、安くて良質の石油を調達しなければならないと考えた国岡鐵造は、イランから石油を調達するため一隻の日本のタンカー「日章丸」を極秘裏に神戸港から出港させた。イランで無事石油を調達した「日章丸」は、妨害しようとするイギリスの軍艦を見事に振り切り無事日本に帰ってきたというから、凄い話だ。これは実話だが、正直言ってそんな事件があったことなど全く知らなかった。この「日章丸事件」によって、日本の海外からの石油の調達の道が開けたといってもいい。まさに、日本経済復興の足掛かりを国岡鐵造が作ったのである。このあたりは、読み始めたら止まらない。理念を持った人物には、運命も味方するものである。すべての出来事が奇跡のような具合にうまく運んでいく様子は、我々読者にも大きな感動を与えてくれた。

小説に書かれた出来事は、事実とは言うが、ある程度は美化された部分もあるかもしれない。しかし、それにもまして日本のためにと私利私欲を捨てて一大石油会社を作り上げた国岡鐵造という人物の偉大さ、素晴らしさを多くの人に知ってもらいたいと思いこの「海賊とよばれた男」を書き上げた百田直樹の思いも大いに伝わってきた。本屋大賞をとった作品でもあり、ベストセラーとなったのも十分納得できた作品だった。