一昨日は枝幸町に泊まれたので、昨日は稚内まで北上するのに朝から少しゆとりのある旅となりました。
稚内の市内に入り、巨大な風力発電で地域を振興したいと発電事業に取り組んでいる稚内グリーンファクトリーの渡辺社長にお会いしました。
渡辺社長は「風車も良いけれど、あとで牛舎も見て行ってよ」と、最近始めたという酪農の様子も見て行けとのこと。
幸い今日はたっぷり時間が取れるので、風車と牛舎をじっくり見せてもらうことにしました。
で、まずは最近建て終えた10基の風車から。
こちらは渡辺社長の稚内グリーンファクトリーと(株)ユーラスエナジーが一緒になって作った天北ウィンドファームとして3万KW/hの風車10基による風力発電事業を行っています。
現地の案内をしてくれたのは社員のSさんで、ぬかるんだ道路を4WDの車で登って行き案内された高台からは、遠くに宗谷丘陵の風車が沢山見える中、ひときわ巨大な風車が白く輝いています。
「この3万KW/hの風車はタワーの高さが80mでブレードの長さは57m。これを作った時は3万KWが最大でしたが、これから作るのは4万KW級で、この後ろに107本建てるんです」
宗谷の風は再生エネルギー生産の最大拠点の一つになることでしょう。
それにしてもスケールがでかい!
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続いて見学させてもらったのは、渡辺社長が「ぜひ見て行ってよ」とご自慢の牛舎です。
こちらは有限会社ビックグリーン増幌という企業として、巨大な三角屋根の建物の中になんと500頭の牛を飼っているのだそう。
そして建物に入ってまず見せられたのが、最新の全自動搾乳機。
見ていると人が牛を追いやるようなことはなく、牛が自分で列を作ってどんどん搾乳のブースに入ってゆきます。
「どうして牛が自分で搾乳機に入ってくるんですか?」
「実はあのブースに入ると美味しい濃厚飼料が出てくるようになっていて、それを食べたさにお腹が減った牛が寄ってくるんです。だから24時間次から次へと牛が並んで搾乳気に入ってきます」」
「なるほど、お乳が張ったからとかじゃないんですね」
「それに牛には皆首にタグが付けられていて、全ての行動がこれで管理されています。濃厚飼料は一度食べてから7時間経たないと次の餌が当たらないことになっていて、列に並んでもゲートで列から追い出されるようになっています」
「搾乳の吸引機も自動で乳房につけられるんですか?」
「はい、ちょうど今やりますから見ていてください」
と、なんとカメラ付きのロボットアームが乳房を見つけてそこに吸引ホースを取り付けています。乳房は4つあるので最大4本の吸引ホースがつけられて牛乳を搾ります。
「この搾乳ロボットが8台導入されているのはほかにもそうそうない規模じゃないでしょうか」
タグ管理がすごいと思ったのは、そうやって今絞っている牛乳の組成をリアルタイムで監視して、乳量がどれくらいかとか、病気の兆候はないか、などもわかってしまうのだとか。
お乳から判定して牛の健康状態が悪いと判断されれば、その牛はそこから先も自動で隔離房へと誘導されて、そこで獣医の診断を受けるようになっています。
次に餌を食べる牛床の方も見学しましたが、こちらでは真ん中に通路があって牛さんたちが向かい合わせに通路側に首を出して餌を食べています。
この餌も、牛さんたちが食べているうちに柵から遠くに押し出されてゆくのですが、これを掃除機のルンバのようなロボットが柵近くに押し返して歩いています。
また牛床の床では糞などは自動で掻き寄せられて牛舎の中央に集められ、スラリータンクに貯められます。
これらはやがて時期が来れば牧草地に還元されてちょうど良い肥料としてリサイクルされるシステムです。
何もかもが全自動のこの牛舎では、今ベトナムからの研修生など6名で全ての仕事をこなしているのだそう。
「作業員一人当たりの搾乳量では全国一だと思います」
その一方で、種付けをされた牛は次々に子牛を産むので250頭のキャパの育成棟もしっかり作られています。
もともとグリーンファクトリーでは、他の酪農家が牧草を刈るときの手伝いをするコントラクターという業務や自らの牧草地の牧草を域外に売るという仕事をしていたのですが、渡辺社長は(これだけの牧草量があるのだったら、自分たちで牛を飼えばもっと付加価値を生み出すし雇用創出でも地域に貢献できるのではないか)と考えて牛を飼う事業を始めたのだそう。
風力発電での社会貢献のみならず、宗谷地域ならではの酪農でも地域振興に貢献したいという渡辺社長の変わらぬ熱さに触れて、こちらの心も熱くなりました。
北の最果てに展開される日本の最先端の酪農の姿。
世の中には様々な地域計画や長期計画がありますが、結局その計画を実行するのはパッション(情熱)をもった人の力であることをつくづく思い知りました。
物事は現場で動いているのです。