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小夜中山夜啼碑 読みはじめに

(庭の水仙)

これから読む「小夜中山夜啼碑」という本は、「小夜の中山夜泣き石」など、掛川市の中山峠の伝説を元にした物語である。著者の鈍亭魯文は幕末から明治に掛けて活躍した戯作者、仮名垣魯文、その人である。
※ 仮名垣魯文(1829~1894)幕末から明治にかけての戯作者・新聞記者。江戸の人。本名、野崎文蔵。別号、野狐庵、鈍亭、猫々道人など。著に、開化の風俗を描いた「西洋道中膝栗毛」「安愚楽鍋(あぐらなべ)」など。

「小夜中山夜啼碑」の冒頭に、著者による、以下のはしがきがある。

曲亭翁の石言遺響は、古蹟を探り、事実を尋ね、日を重ね、月を経て、やゝ稿成れる妙案なりとす。この小冊はかの意に習わず、古書にも寄らぬ、自己拙筆、疾(はや)いが大吉、利市発行、二昼一夜の戯墨にして、勧善懲悪、応報の道理を録せし。談笑諷諫、更(ふけ)るを知らぬ。小夜の中山、灯下に綴る一夕話(こと)。無間の鐘の暁かけて、夢とうつゝに草稿成り、寝言に類等(ひとし)き業(わざ)くれながら、童蒙(おこ)さま方のお目ざまし、飴の餅とも見なしたまえや。
※ 諷諫(ふうかん)- 遠まわしに忠告すること。また、その忠告。
※ 無間の鐘(むげんのかね)- 静岡県、佐夜の中山にあった曹洞宗の観音寺の鐘。この鐘をつくと現世では金持ちになるが、来世で無間地獄に落ちるという。 
※ 童蒙(どうもう)- 幼くて物の道理のわからない者。子ども。
※ 飴の餅 - 小夜中山名物、子育て飴は昔より有名であった。

       戀岱野狐庵主
             鈍亭魯文記 ㊞
  安政二乙卯年新梓

※ 新梓(しんし)- 新版。「梓(あずさ)」は木版印刷に用いる版木のこと。

はしがきに言う「石言遺響」は曲亭(滝川)馬琴の作として、図書館で復刻版を見ることができる。その他、自分が図書館で手に取ることができる、夜泣き石を主題に据えた古書(復刻本含む)は以下の通りである。

  往昔諺話小夜中山霊鐘記全 藤屋武兵衛(1748)
  石言遺響         滝沢馬琴(1805)
  小夜中山夜啼碑      仮名垣魯文(1855)
  小夜中山縁起       遠州小夜中山 久延寺(1868以降)

他にもあるのかどうか、知らないが、仮名垣魯文のものは、久延寺縁起を別とすれば、最も新しいものである。

さて、「小夜中山夜啼碑」の本は、昔、蚤の市で500円ほどで買ったものだと、Aさんは話した。今同じ本をネットの古書で探してみたら、4万円近い値段が付いていた。遠州の小夜中山の名前に引かれて、江戸土産に買って帰ったものだろうとAさんは言う。B6版の小さい和綴じの本で、お土産には最適である。また、井草芳直の見開きの挿絵が19枚も入っていて、その絵が中々上手い。見ても楽しめる本である。
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