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小夜中山夜啼碑1 発端、望月隼人と村雲主膳

(ひっそりと咲くヒサカキの花、たくあんの匂いがする、
昨日女房の実家のお墓参りで、すぐ脇に見つけた)

「小夜中山夜啼碑」を解読するに当って、これを読んで下さる皆さんに、出来るだけ読みやすいように心掛けた。漢字や仮名使いを現代のものに直すこと、判りにくい言葉には注を付けること、仮名ばかりで判りにくいところは漢字を使うことなど、今までの解読と同様である。「小夜‥‥」では、著者は文の流れをよくするために、所々で、七五調を使っている。そんな部分については、原文には全く無い句読点を、出来るだけ七五調を生かすように打っていきたいと思う。

それでは「小夜中山夜啼碑」の解読を始めよう。

   小夜中山夜啼碑(さよのなかやまよなきのいしぶみ)発端
                    江戸   鈍亭魯文編
諸説(その)往古、信濃国の領主、更科田毎介影住といえる人、おわしける。遠祖の勲功によりて、領地あまた賜わり、その家ます/\富み栄えて、鎌倉どののおんおぼへも、いとめでたく、君臣人和して、無事安穏に諸人万歳を称えける。ここに更科家の藩臣に、望月隼人といえる者、忠義無二の士にて、弓馬剣法の道にも闇(くら)からず、就中(なかんずく)軍学経史、諸子百家、和論事歴に至るまで、明弁せざるもなかりしに、慎むべし、終に非命に死す。
※ 明弁(めいべん)- 明らかに分別する。明白に説明する。
※ 非命(ひめい)- 天命を全うしないこと。思いがけない災難で死ぬこと。


その顛末を尋ぬるに、この頃当家へ新来に、抱えられたる村雲主膳と言える者、奸佞邪智の本性尓て、佞弁をもて者を迷わせ、忠臣を遠ざけ、己に等しき輩を吹挙し、その身の出世をぞ、巧(たくみ)ける。
※ 奸佞(かんねい)- 心が曲がっていて悪賢く、人にこびへつらうこと。また、そのさま。
※ 邪智(やち)- よこしまな知恵。悪知恵。
※ 佞弁(ねいべん)- へつらって,口先の巧みなこと。また,へつらいの言葉。


望月隼人、村雲が、日頃の振廻いを審(いぶかし)み、この者ながく昵勤せば、終には君が明徳の、光りを失う曲者にて、おそるべきの盗臣なり。これを知って諌めずば、臣たるものゝ道にあらずと、一時(あるとき)主君の側(かたわら)に、人なきを幸いに、道を尽くし理を述べて、さまざまに諷諫しけるにぞ。
※ 昵勤(じっきん)- 親しみ勤める。
※ 諷諫(ふうかん)- 遠まわしに忠告すること。また、その忠告。


影住朝臣、元来の明君なれば、大いに後悔し給いて、それより何気なく村雲を、遠ざけ給いけるにぞ。主膳はたちまち寵を失い、つら/\一人思案なすに、我れ今、主君の愛を失い、剰(あまつさ)え、かたわらを遠ざけらるゝこと、全く日頃不和(仲悪しき)望月隼人が賢しらにて、我が君寵を嫉妬(ねたま)しく、密かに讒言(ざんげん)せしものならん。

いつにもして、この憤(いきどお)りをはらさばやと、そのひまを伺いけるに、今度、影住朝臣の嫡男、桂之丞影光に、かねて云号(いいなづけ)ある、上野国の領主、赤城判官高峯の息女、深山姫を迎えとりて、婚姻あるべきに定まり、この義を望月隼人に命ぜられけるぞ。隼人は即刻用意とゝのえ、供人あまた従えつゝ、上野に出立し、まだ夜深きに、姥捨の山の麓をよぎる。
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