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小夜中山夜啼碑8 十六夜の霊、我子に乳房を含ます

(十六夜が霊、我子の泣き声を慕い、折々出て乳房を含ます)

一日、4人の孫で大騒ぎ。ムサシ昨夜玉ねぎを含んだものを口にしたらしく、未明に何度も嘔吐して、今朝、動物病院へ連れて行った。結果、今日は食事抜きとなり、空腹なのか宵の口まで騒いでいた。この時間はあきらめて寝てしまったようだ。

小夜中山夜啼碑の解読を続ける。

かくて上人は、この赤子を朝暮かたわらに寝かしおくに、乳の欲しき頃に至り、少しむずかる時、不思議や一つの陰火ひらめき、赤子のほとりに落つると見ゆれば、すや/\と寝睡せり。

かくすること度々なれば、上人思い給う様、これ母親の亡魂の、子に添え乳するならんとて、その後は更にあやしみ給わず。この一奇事は上人の目にのみ見えて、余の者は側に居るとも知らざりけり。

光陰は矢のごとく、ひま(隙)ゆく駒の蹄(あがき)疾(はや)く、この児、虫気もあらずして、ようやく乳ばなれのする頃は、所にひさぐ飴の餅をねぶらせけりに、肉(しゝむら)肥え、骨太く、追々成長、今年十二才の春をむかえ、手習い学文、怠りなく、一を聞いて万を知り、大人も及ばぬ才あれば、上人は世に頼もしく、ゆく/\は出家させ、我が後住にもと思しけり。
※ 隙ゆく駒(ひまゆくこま)- 年月の早く過ぎ去ることのたとえ。
※ 駒の蹄(こまのあがき)- 時が過ぎていくことのたとえ。また、時の過ぎるのが速いことのたとえ。
※ 後住(こうじゅう)- 住職の後継者。


この児(ちご)の名を始めより、里人呼んで、石よ/\、石若よ、と呼び慣わしけるにぞ。上人もかく呼び給い、自らも名と覚えて、終に石若となりにけり。

かくて、ある時上人は、石若を居間に招ぎ、仰せける様、我れ、汝が種性を、今までは包むといえども、今こそ語り聞かすべし。汝はかやう/\の義にて、人手に果てたる懐妊女の疵口より、産まれ出で、観音菩薩の霊夢によって、この年来、養育せしかど、何者の胤なるを知らず。
※ 種性(すじやう)- 素姓。

母の死骸のからわらに、うち捨てありし守り袋、外に短刀一腰ありと、とり出して見せ給えば、石若は日頃心に懸りたる、家尊父母の事初めてうち聞き、昔を忍ぶ俄の雨、乾きもやらぬ袖の露。また師の坊の手一つにて、十をあまり二年(ふたとせ)を、育てられたる高恩は、口に言うともなか/\に、及びもやらず、礼(いや)も涙に口籠(くごも)りて、ただうち伏してありけるが、
※ 家尊父母(かぞいろ)- 父母。父と母。
※ 礼(いや、うや)- 「礼」の事を「いや」あるいは「うや」と云った。「うやまう」「うやうやしい」などの語源。



(笹鶴錦の文様、鶴は蔓のことだろう)

暫くありて両手をつかえ、師にうち向い、これまでの、莫大慈善の恩を謝し、母の片身に笹鶴錦の守り袋をおしひらき、証拠やあると求むるに、中より出でる書付を、手にとり披(ひら)き閲(み)るに、信濃国の領主、更科家の藩、望月隼人が妻、十六夜と記したり。
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