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投資は米国債が一番シリーズ その2.ゼロ金利が日本を衰弱死させる

2023年10月10日 | 投資は米国債が一番

 このシリーズ、前回はデフレからインフレに転じた日本は、「賃金がインフレに追い付かない実質賃金の低下により窮乏化の道を歩み始めている」ということを示しました。

 その実質賃金ですが10月6日に公表された8月分の実績値でも低下が続き、なんと17か月間も連続で低下しているのです。その結果8月の消費支出は物価変動を除くと2.5%減少し、こちらも6か月連続のマイナスとなっています。収入が増えなければ消費が盛り上がることはありません。インフレに負けるのは賃金収入だけではなく、もっと激しく負けているのは金利による収入です。家計の抱える1,000兆円にのぼる預貯金による金利収入はゼロに等しい。そして年金世代の収入も同様に増えるどころか今年は減少しています。家計の金融資産はその他にも1,000兆円ありますが、そのうちの貯蓄性保険なども金利収入の激減に悩まされています。

 

 そもそも金利レベルというものは、日本でもアメリカでもおおむねインフレを若干上回り、金利収入が実質ベースで目減りすることはあまりありません。そのため預金していても定期預金であれば、インフレに大負けすることはなく、一歩進んで国債でも買っておけばインフレ率を引いたとしても、マイナスにはならないのです。その理由は経済原則的にはインフレ上昇に伴って金利が上昇するからです。もちろんオイルショック時のように一時的な逆転はありえますが、長期のトレンドではインフレと金利は並行して動きます。アメリカの現在をみれば明らかです。インフレのため金利が大きく上昇しています。

 ですので、どの国でも年金資金の大半を国債で運用しておけば、将来の年金支払いに困ることはないはずなのです。ところが日本では異次元緩和などという経済原則を無視した超緩和策を実施し、それが10年を超える長期に及んでいるため、ちょっとインフレが高進すると、金利がインフレに負けることが当り前になってしまいました。すると我々の預金もインフレに負けて目減りし、積み上げた年金もインフレに負けてみんなが窮乏化していく。それが今の日本が置かれている状況です。

 

 そこで政府日銀は次なる成長という飛躍のためだと超緩和策を導入しました。成長はもちろん必要だし悪くはないのですが、そのために無理な低金利政策と資金供給をやり続け、かえって国民の不安を増大させ、消費を委縮させてしまう悪循環に陥っています。

 

 成長という言葉、便利ですよね。国政選挙でも地方選挙でも全候補者が成長を唱え、選挙が終わっても唱え続けます。政治家だけでなく経済界も、金融界も、全員が唱え、誰も正面切って「もう成長なんてヤメロ」と表立っては言えません。

 

 そこで私が言ってあげます。「もういい加減、成長というお経を唱えるのはやめろ!」。

 

 無理な成長などしようとせず、身の丈に合った成長をすればそれでいいはず。身の丈とは潜在成長率並の成長です。潜在成長率は「生産人口増加率+生産性の上昇率+資本設備の増加率」を合計したものです。生産人口が減少する現在、潜在成長率はどの程度か、日銀の推計をもとにした東京財団による調査結果を見てみましょう。昨年9月の報告書からです。

引用

日銀が推計する潜在成長率の推移をみるとリーマン・ショックで一時マイナスに落込んだ後、14年頃には約1%まで上昇したが、その後は再び低下基調となり殆どゼロまで落込んだ。戦後2番目の長さとなったアベノミクス景気は潜在成長率の押上げには全く寄与していない。

引用終わり

 

 80年代には4%あった潜在成長率ですが、今はゼロに落ち込んでいるのが実態です。それをむりやり押し上げようと、もがけばもがくほど無駄な財政支出が増え、政策金利をマイナスにしたままのため金利収入もなくなり、国民は窮乏化へまっしぐらとなるのです。ホントは恐ろしい「成長」という言葉の魔力を我々はしっかりと頭に入れておきましょう。

 

 さて、前回予告した今回の本題です。

 こんな状況の日本経済に対して、10年前から異次元緩和という旗を掲げて十年一日のごとく同じことをやり続けていますが目立った効果をあげていません。医療の世界では同じクスリ、それも劇薬の長期間服用は中毒症状や副作用が大きくなるため、治療方法を変更するのが当たり前。今の日本はまさしく薬が効かなくなってどんどん投薬量を増加させ、劇薬の副作用ばかりが目立つようになっています。副作用とは、金利収入がなくなること、金利は上昇しないだろうと高をくくり個人や企業が借金を抵抗なくすること、同様に政府も巨額債務超過となりそれを支える日銀の国債大量買いを継続。それらに危うさを感じ、自分の資産だけは守ろうと消費行動が保守的になっていることが副作用です。

 

 緩和策が当初の目標通りほんとに2年という短期決戦であれば、「よし、低金利のいまのうちに借金してでも設備投資をしておこう、あるいは借金してでも家を買ったり車を買っておこう」となる。しかし緩和がいつまでも続くとなれば誰もすぐに動こうとはしなくなる。時限措置であることが効果を増します。時限がないのが長期服用の最も悪い副作用です。

 時限に効果があることはジャパネット・タカタがみごとなまでに証明してくれています。毎日テレビであのお兄さんが、

「77種も入ったおせちが通常価格29,800円。でもいまならなんと1万円引きの19,800円!」

彼らはいつもそういう方法で消費者を煽り、見事にニーズを引き出します。

 企業も消費者も、いつまでも金利が安いのなら「イマでしょ!」などとは思わないのです。どうせ金利は上がりっこないという見込みをみんなが抱いている。それがさらにデフレマインドを助長してきました。政府にもう一言言ってあげます。

 

 「デフレマインドを作っているのは、あんた達だよ!」

 

 では大破綻など起こらずにこのまま推移したどうなるか。私の見立ては、「衰弱死」です。

 薬漬けの老人が静かに息を引き取るように、日本も静かに静かに衰弱して行き、やがてご臨終を迎える。

  その間に起こることは、賢い人たちによる日本からの逃避です。物理的に日本を離れるのではなく、居ながらにして衰弱死から免れるための行動を起こす。それはもちろん円建て資産からドル建て資産への静かなる逃避です。

 家計の金融資産が、実は静かに外に向かっていることをみなさんご存知でしょうか。みずほ銀行のチーフ・マーケットエコノミストである唐鎌大輔氏によると、「一般投資家による株式投資信託の買いがこの3~4年で5兆円ほど増加しているが、中身を見ると国内株は5兆円減少し、外国株が10兆円の増加となっていて、合計5兆円のプラス。今後もこの傾向が続く可能性が大きい。」とのこと。この解説は実は為替の見通しに関する分析をしている時に示されたもので、金融資産を持つ個人の行動が大きな変化をしつつあるとの見通しを示していました。

 

 ではこの先それが反転することがあるか?私はもちろんないと思います。今後は株式投資だけでなく、超安全な米国債投資も増加すると、円安はじわじわと助長されます。日本財政の表立った破綻がなくとも、いままのまま緩和策が続くことで日本というカラダは徐々に蝕まれ、円安は高進し、インフレが家計を破壊し、遂には衰弱死に至る。

 

 以上が私の見通す、大破綻しなくとも死に至る日本経済の哀れな末期です。

 

 

コメント (3)
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