年中行事とまでは言いませんが、またぞろデフォルト騒ぎが起きていますね。私のところに個人的に質問がきていますので、いかにこれがナンセンスな政争にすぎないかを解説します。
最初の著書でもこのブログでも何度か解説しましたが、この問題は共和党と民主党の政争です。基本的に大きな政府派、つまり歳出を大きくしがちな民主党に対して、小さな政府派、歳出をセーブし税金も少なくする派の共和党が政権に揺さぶりをかけるためにおこなうお決まりのパフォーマンスです。
最初に起きたのがオバマ政権下の2011年8月で、私は前著の最終原稿のゲラを出版社に渡し、家内とニューヨークの友人を訪ねる旅に出る寸前でした。出版社から大丈夫かとの問い合わせがあり、「大丈夫です」と言い残して飛行機に乗ってしまったのですが、「やはり簡単でもいいから解説を入れてほしい。今印刷をストップして待ちます」と出発の空港で電話がきました。機内で1ページほどの解説文を手書きで書いて、到着空港のKinko’sでファックスしたのを覚えています。
内容は、
・米国は本当のデフォルトなどしない
・その証拠に米国債のデフォルトに対する保険料率は、騒ぎの発生以来、ピクリとはしたものの、ほんとんど動いていない。つまりデフォルトに対して保険をかけようという動きにはなっていない
・たとえ本当にデフォルトしたとしても、それはボクシングで言うスリップダウンで、勝敗を決する点数には影響しない
というものでした。その時以来、実はたびたび米国政府はオカネに詰まって様々な費用支払いをできずに政府機関が閉鎖されたことがこれまで3度ほどありました。今回もその延長線上にあるのですが、「今回は深刻度が違う」というアナリストがけっこういます。もちろん私は「またか」としか思っていません。
そこでよしんばデフォルトになるとどうなるかのシミュレーションを簡単に行いましょう。国債の元利金を期限までに支払えないと格付け会社はデフォルトを認定します。しかしこれは支払い能力がないという本来のデフォルト認定ではなく、支払い能力はあるのに政治的あるいは技術的問題で支払えない「テクニカル・デフォルト」という認定になります。私がよく言うスリップダウンです。こうしたことは民間企業などでも時々なんらかの手違いで起こすことがあります。それがたび重なると、格付けを下げられることは大いにあり得ます。たとえ企業の財務部の支払いシステムが故障しただけでも、そんな企業は信用がおけないとなるのです。
2011年7月にこの問題が大きくなり、8月5日金曜日には有力格付け企業の一つであるS&Pがアメリカ国債をトリプルAからダブルAプラスに一段格下げしました。しかしムーディーズはその時も今もトリプルAのままです。もう一社のフィッチレーティングスを入れて大手3社と呼ばれますが、格下げしたのはS&Pだけでした。
そのあたりから発表後にかけて何が起きたか。週明けの8月8日月曜日、アメリカ株式は3指数とも大暴落しました。そしてドルも暴落し、世界の金融市場に大きなショックが拡がりました。株式・債券・ドルのトリプル安となれば、世界でも金融ショックが拡がるでしょう。
ところがこの時はなんと肝心の米国債は逆に買われたのです。これぞまさに絵に描いたような「資本の逃避」です。アメリカや世界の金融市場に一兆事があると、世界のマネーは米国債に逃げ込むのです。それはアメリカ発のリーマンショックでも同じことでした。
これにはまだ後日談が続きます。ダウングレードをした当のS&Pの計算が間違っていたことを財務省が見つけて告発。米国政府の歳入・歳出の赤字を10年間で2兆ドル、当時のレートで約170兆円も過剰に計上し、そのためダウングレードしたのです。しかも指摘されるとそれをS&Pも認め、当時の社長も9月早々に辞任しています。
「だったら取り消せばいいのに」というのが私だけでなく、アメリカの権威ある関係者も語っていました。例えば私が投資家として尊敬するウォーレン・バフェット氏、ノーベル経済学賞を得ているポール・クルーグマン教授などです。なかでも傑作は毒舌を吐くので有名な映画監督のマイケル・ムーアで、「社長を捕まえてブタ箱に入れろ」とまで言っていました(笑)。しかしS&Pは社長が辞任しても挙げたこぶしを降ろさず、いまだに格下げをしたままです。
ということで、たとえデフォルトが発生しても格付け会社はテクニカル・デフォルトと認定する可能性が高く、一瞬そのために世界の金融市場が動揺を来たしたとしても、逆にそれこそバフェット爺さんが喜ぶ株式の絶好の買い場を提供することになるでしょう。
もし動揺が激しく米国債の価格が瞬間でも下げる、つまり利回りがどっと上昇したとすれば「チャンス到来!」。みなさん、それこそ本腰入れて投資しましょう。普段は金利上昇で買われるはずのドルが米国債と一緒になって売られて下げていたら、なおさら「ビンゴ―!」と叫びながら買いましょう。
するとバフェット爺さんはきっと暴落をした株を買った途端、「オレ様が政府に当座の資金を貸して、流動性を供給してあげるよ」といって相場を押し上げ、大儲けするに違いないのです。
以上、「愚かなる米国債デフォルト騒ぎ」でした。