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トランプ恐怖支配の終焉

2018年12月26日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

  株価の暴落が止まりませんね。それに対して一人ホワイトハウスでクリスマスを迎えたトランプが、絶え間なく吠え続けています。私の「吠えるな、トランプ!」の声は届いていないようです(笑)。自分のいかさまゴルフを棚に上げて、面白いことを言っています。24日クリスマスイブ、ロイターからの引用です。

 「トランプ大統領はツイッターで「米経済にとって唯一の問題はFRBだ。彼らは市場に対する感覚がない」とし、FRBを「腕力はあるが、パットのセンスが欠けていてスコアの上がらないゴルファーのようだ」と批判。貿易戦争や強いドル、壁を巡る政府機関閉鎖について理解していないと指摘した。」

   私からは今度は聞こえるような大声でこう返してあげます。

 「米経済にとって唯一の問題はおまえさん、トランプだ。おまえさんは市場に対する感覚がない。大統領が吠えたからって、株価を上げられるもんか!」

  さらに全ゴルファーのためにもう一言、「ゴルフでいんちきするトランプの言葉などに聞く耳を持つな」です(爆笑)。

   日米ともにあわてる政府関係者や金融系エコノミスト達のコメントはおしなべて、

 「株価は暴落しているが、実体経済の足元は堅調で問題はないため、心配する必要はない」ということを繰り返しています。しかしほんとうにそうでしょうか。私は疑問を感じています。株価は半年・1年先を見て動いているのに、足元の堅調さだけでは説得力に欠けます。

   そもそも実体経済の安定性ということがどこからきているかと言いますと、アメリカで言えば企業収益や消費の堅調さ、賃金の伸びなどですが、それらはトランプの減税と言うドーピングによると部分が大です。これ以上のドーピングは民主党の下院勝利により禁止令が出されました。一方で貿易戦争が中国経済にも影響し、それが世界経済の見通しを悪化させています。さらにアメリカ国内でもトランプに対する離反の動きがハーレーダビッドソンやGMなどのメーカーに拡がっています。

  こうしたことに対して評論家からは様々なコメントがありますが、私は個々の対市場コメントより大事な点を指摘します。それは、

 「恐怖による支配の終焉」です。

   「恐怖」とはニクソンを辞任に追い込んだジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏の著書の英語版タイトルで、トランプのやり口を恐怖による支配であると定義しています。私もその通りだと思います。外交政策はもちろん、国内政治、経済問題から金融市場まで、彼のツイッター攻撃による「恐怖」で震え上がっていたのがこの2年でした。

  しかしみんながそれに反抗し始めたのです。それが先に指摘した「恐怖による支配の終焉」なのです。

   マティス国防長官はトランプをあからさまに批判して自ら辞任。経済原則に則って行動するアメリカメーカーも離反。中国は最初から反抗し続け屈しない。議会も予算を巡り共和党すら離反。FRB議長も決然と対抗し、株式市場もトランプに「NO!」を突き付けました。

  そして日本ではあまり報道されていないのですが、司法においてとても大事な動きがありました。それは最高裁判事の離反です。12月22日のウォールストリート・ジャーナル日本語版から引用します。

「【ワシントン】メキシコ国境からの不法入国者による難民申請を禁止する米大統領令を一時差し止めた地裁の命令について、トランプ政権が差し止め解除を求めていた訴訟で、連邦最高裁判所は21日、政権の訴えを退けた。トランプ大統領の移民政策に対し、司法がまたも待ったを掛けた格好だ。」

   最高裁の判事の構成は少し前に1名のセクハラ疑惑の新判事をトランプが指名し、9人のうち5人を保守派で固めたはずでした。しかし今回の判決ではトランプにノーを突き付けました。FRBに次いでアメリカの司法もトランプ支配から独立し、きちんと機能していることを示しました。

 

  これでアメリカでは司法立法行政もトランプにノーを言える健全なる行動原理を有していることが証明され、私はとても安心しています。どうりでトランプが一人寂しくホワイトハウスで嘆くわけです。

  しかし安心はできません。それは、彼はサイコパスと診断されている人間ですので、ここから本領を発揮するからです。本領とはもちろん破れかぶれの暴走です。それによるトランプリスクは来年も継続します。それでもみんなが反抗するようになれば、彼の暴走に歯止めがかかります。


   年末恒例のユーラシアグループ代表イアン・ブレマー氏の2019年の「世界の地政学上の10大リスク」がどうなるか、今から楽しみにしましょう。18年の見通しで彼はトランプリスクを過小評価というより、リスクからほとんど消してしまったのですが、年央に私はそれをどうも誤りだと指摘しました。世界は今年の後半戦もトランプリスク一色でした。それでも彼の指摘する一つ一つの項目は頭に入れておく価値は十分にあります。


  さて、株式暴落の一方で原油価格と米国債金利の下落が止まりません。米国債投資を考えていたみなさんは、私がブログでお勧めした時期に、しっかりと投資されましたか?私は著書の出版以来はじめて、今年は2回買いシグナルを出しました。

   アメリカ金利が久々に3%を超えたのは今年の4月末、私の著書が出た11年8月以来、約7年ぶりのことでした。そこで私は今年4月24日に最初のお勧め記事を書いています。シリーズ「トランプでアメリカは大丈夫か」の7回目の記事で、サブタイトルは「米国債投資のチャンス到来」でした。10年物国債の金利は5月中旬に3.1%台までいき、いったんピークを迎えて反落し3%を下回りました。

  その後9月下旬にふたたび3%を上回り始め、10月8日に私は「米国債投資のお勧め」というタイトルで単独の記事を書いています。その時の10年物金利は3.23%でした。そして3%台は11月末まで2か月にわたり続きました。

  ところが11月23日にコメント欄で陽子さんの質問に対して、私は以下のように回答しウォーニングを出しました。引用します。

 陽子さんの質問

>アメリカの経済はまだまだ大丈夫!と思っていましたが、ここへ来てなんだか不穏な空気ですね。。。償還まで20年以上の長期債も思いきって前倒しで買っていこうと思います。

私の回答

さまざまな経済指標のなかでも、いわゆる将来を指し示す先行的な指標に陰りが見え始めているので、一方的に成長継続とはいかないと思います。

 ただ日本との決定的違いは、すでに何回も利上げをしているので、いざとなったら何回も利下げで景気を刺激できるところです。

 長期債への投資は最初の一歩は早めに、その後はじっくりと進めてください


  「最初の一歩は早めに、その後はじっくり」というのはもちろん、長期金利が今後低下しそうだという予想をたてて申し上げています。陽子さんは最近のコメント欄で米国債への投資比率が高くなっているとのことですから、大丈夫そうですね。

   では、もし10年物が3%台にあった時点で投資し損ねたという方はどうすべきか。

代替としては短期債への投資もありだと思います。アメリカ債券市場のクリスマス前の終値のイールドは以下のとおりでした。

  10年債;2.75% 5年債;2.58% 2年債;2.57%

   10年物金利は急落し、5年物と2年物は若干低下したうえにほとんど差がありません。これをどう見るかですが、金利の示唆することを素直に述べますと、以下のようになります。

 「短期が高いのはまだ利上げがありそうだということ。中・長期が短期と比べさほど高くないのは、中期的には利上げが停止され、その後も経済成長が鈍化し、物価も雇用も強くなりそうもないことを示唆している」ということです。ですので、中期・長期ものへの投資はペースを緩めるかいったん停止し、長期金利の上昇をもって再開するのがお勧めです。

   もちろん上記は瞬間風速だけを切り取って解説していますので、今後の実体経済の変動や先の見通しによっては変化の可能性があることを頭に留めておいてください。 

 (注)私の言う短期とは2年物、中期は5年物、長期は10年物以上のことです。

コメント (11)
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