「先生、と呼ばれるほどの馬鹿でなし」という川柳がありますが、他人に、特に初対面の人にどう呼びかけたらいいか困った経験は、多くの方にあるでしょう。よくわからないけれど、とりあえず偉そうな人には「先生」と呼んでおけば無難だろうと、我々が「先生」を乱発しがちなところを、冒頭の川柳は皮肉るわけです。だいぶ以前、ホステスさんは太った人は「社長」と、痩せた人は「先生」と呼ぶようにしていると聞いて、苦笑したことを覚えています。
お坊さんも、どう呼びかけたらいいか多くの人が迷う立場にあるようです。私も何度か「どうお呼びすればいいんですか」と言われたことがあります。
一度、ある人のブログに「今日、南禅師様にお会いした」と書かれて仰天したことがあります。確かに禅僧ですから、一般の人たちから見れば、禅の教師・先達の意味で、「禅師」に間違いないのです。が、これは、現在の曹洞宗の制度では、大本山永平寺と総持寺の貫首(住職)2名にだけ許されている敬称なのです。まかり間違うとただの誤解ではすまない事件になりかねないので、あわてて訂正していただきました。
禅宗の場合、他によく使われるのは「老師」という言い方です。これも年齢的に老いているという意味よりも、円熟している、指導者として大成している、という意味がこめられていて、必ずしも老人とはいえない禅僧にも使われる場合があります。私も40歳前から、若い修行僧にそう言われ始め、そのたび「お前、おれが老いて見えるか!」と怒鳴ってやめさせていました。これも本来、むやみに使うべき敬称ではないでしょう。ただ、50になった最近は、自分の若い頃だって、50歳の禅僧に対して他に無難な言いようがなかったなと思い直し、若い者にそう呼ばれたときは、かろうじて聞こえるくらいの声で返事をしています。
言われて嬉しいというか、こころ安らかでいられるのは、私の場合は「方丈さん」と呼ばれたときです。この「方丈」とは禅寺の住職の書斎・居室のことで、一丈四方の部屋という意味です。これを敬称として使うわけで、私が住職する寺の檀家はそう呼びますし、改まった場では「南方丈」と呼びかけてきます。この言い方が一番好きです。ただし、住職以外の僧侶に使えないのが難点です。その点、「和尚」はいいですね。これはもともと「師」を意味するサンスクリット語を漢語で音写した言葉です。小さい子供などに「和尚さん」と呼ばれるとほっとします。
禅宗以外の宗派にも様々な敬称があり、それを聞き覚えている人からは、いろいろな呼ばれ方をしました。ただ、いきなり「御前(ごぜん)」と言われたときは、「男はつらいよ」じゃあるまいしと思ったし、「お上人さん」と呼ばれると、念仏や真言とは宗旨が違うんだがと独りごちたりします。
それほど気にするようなことでもないのでしょうが、相手が気を使っている様子がわかると、どうもこちらの方も意識過剰になってしまうようです。というわけで、単純に「南さん」と読んでいただくのが、やっぱり気楽でよいですね。
追記:「アエラ」の記事は、雑誌の事情で、来年に掲載が延期されたそうです。あしからず。
さて、「老師」ですが、中国語では特に高齢でなくとも、先輩には「せんせい」の意味で使うようですね。
12月7日朝 NHK番組 こころの時代を偶然拝見させていただき 始めて お会いさせていただきました。
当方、現在 朝日新聞夕刊 月曜日「熊野・大和」で ご紹介下さっております奈良県吉野郡十津川村
の 武蔵野音楽大学卒業のものでございます。
故東大寺207208世別当に 可愛がっていただきまして、経済社会に 百貨店に店を出させていただき…。 が、
世間の 現代思想 自分探しブームの 社会混乱に、丁度 阪神大震災の時でした 1995年1月.より 苦しめられてまいりました。
いったいこの混乱は何だったのか 社会の層 損益 誰の為のブームだったのか 理解する
禅の域の 僧職の方 お2人が 力を共に表に出て下さりましたこと大変うれしく存じます。
そういう気持ちにあるものも 世間一般とは少し違う視点からおりますこと 是非お伝えしておきたくて メールさせて頂きました。 ご無礼しました。
「方丈さん」、うちとこのお坊さん、という感じでいいですね。
それから、「倫理」、社会的な決めごとのことかと思っていたのですが
本屋さんで和辻やスピノザの本を見かけてざっと斜めに眺めたところ
1個前のお話で出てきた信頼などが出てきて
これなら実感からそう遠くないかもしれないと思いました。
先週はちょうど人との信頼関係がフォーカスされることがあって、なるほど、と思いました。
また、社会的な関わりでも、医療なら比較的自分の実感に近いと気づいたので
そこら辺も足がかりにしていこうと思います。
くるっと振り向いて「はい」と言っていただけてほっとしたのをおもいだしました(うちのお寺は真言宗智山派)
このまえ、ブログとは関係ない質問はどうすればいいかとコメした者です。
せっく親切に教えていただいたのに番号をメモし忘れてしまっていたので、もう一度教えていただけないでしょうか?
昔は40才を「初老」と呼んだので、「老」という字に別に悪気はなかったのです。中国語的語感で使ってしまいました。
方丈様が「老師」の呼び方をこころよく思っていなかったことは意想外でした。
「方丈さま」っていうのも、方丈ほどの狭いところに住んでいる人という意味で、不快に感じる和尚さんもいるようですし。
呼び方って本当に難しいです。
初めて書き込みさせていただきます。とても参考になる(いつも参考になりますが…)記事を有難うございます。
実は8月初旬に恐山に伺ったとき、早朝、祈祷をお願いしましたらご住職がいらしたので、この方が南様かしら(本は何冊か拝読しお写真拝見しました)…と思いつつ、はてこういう方をどうお呼びすればよろしいのだろう???と随分気になっておりました。
流石に若輩者が「南さん」は申し訳なく、「老師」もイメージと違う、「禅師」「和尚様」「先生」??(てっきり禅師かと思っておりました)。
どうやら、「和尚様」は大丈夫なようで一安心でございます。今後は「ご住職」「方丈様」「和尚様」など適宜使ってまいります。
寒い時節ではございますが、南和尚様には何卒ご自愛の程。