くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「カルテット!」鬼塚忠

2010-02-20 06:16:08 | 文芸・エンターテイメント
途中まではすごくおもしろかったのです。崩壊しかけた家族を、音楽で再生させる。音大でピアノを専攻していた父(リストラにあって今は失業中)、チェロを弾いていた母(アルバイト)、フルートをかじったことがある姉・美咲(ギャル)、そしてバイオリニストとしての才能を期待されている中学生の開。ばらばらだった彼らの音が、次第にまとまり、コンサートホールで演奏する計画を立てる。でも、両親の間の亀裂は大きく、このイベントが終われば離婚する可能性もあるので、開としてはなんとかこれを成功させたいと願うわけです。ところが、開の所属する重松ファンタスティックコンサートの日程が、ちょうど家族コンサートと重なることになってしまい……。
様々な紆余曲折とか美咲の変容とか気弱な父のアレンジストとしての才能とか、開にバイオリンを指導している千尋先生とかいろいろな見所があって、とくに演奏に緊張した父に、開がこういうことを言うシーンはたまらなくいいのですか。
「緊張するのは、いい演奏をしようとする気持ちの現れなんだって。だから安心して緊張すればいいって、先生が言ってた」
「安心して緊張するってどういうことだ?」
「緊張する気持ちに先廻りしておくこと」

鬼塚忠「カルテット!」(河出書房新社)です。
スピーディーに読めてテンポもいい。でも、後半にホールの空席を埋めるため美咲が先輩にピーアールをお願いするエピソードがあるのです。ギャルの生活をブログで紹介していて、一日に一万件以上もアクセスがあるんだって。そのブログに宣伝を書いてもらったら一夜にしてチケットは完売。……なんたるご都合主義!
まあ、とりあえずそれはいいことにしましょう。わたしがあきれたのは、この先輩が登場から十四ページしかたっていないにも関わらず、なんと、違う名前になっていることなのです。
「リカも見たけど めっちゃいけてるっ!」といってるあなた、ついさっきはリナって名前ではなかった?
非常に不可解です。いや、誰にでも間違いはありますよ。でもこれほどわかりやすいミス、普通は校正に指摘されるものでしょう。
平行して「世界文学全集を立ち上げる」(文春文庫)を読んでいるせいか、これは「小説の骨格」がわかっていない作品なのかな、と思いました。伏線をはるとか、予定調和をさけるとか、小説たらしめている部分に欠如があるように思います。しかも、先輩と二人乗りしていた女の子が妹って、なにそれ? 今どきそんな展開なの?
この感じは、やっぱり少女まんがっぽいですね。昔の別マにでも載ってそうな。ただし槙村さとるではない(彼女だったら両親は音楽を捨てていないと思います)。
彼らの演奏する曲の名前を見て、だいたい半分くらいはすぐ曲調が浮かぶのですが、わたしにはおぼろなものもある。
クラシックの教養部分と、ギャル的な部分が何となく調和していないような気もします。
それにしても、千尋先生はおいくつなのでしょう……。開にとって憧れの存在で、お母さんからは
「あの先生に教えていただけたからこそ、ここまで伸びた」と評価される先生。自動二輪の免許もお持ちです。
話の展開上仕方ないのかもしれないけど、音楽の個人レッスンを行っている人が、リハーサルまでやったのに心ここにあらずだった教え子が、やはり家族コンサートに参加するからということで本番をすっぽかすのをよしとするものなのでしょうか。(ついでに、千尋先生の教室を「音楽学校」と書いてあるのですが、そういう呼称でよいのですか? 「音楽学校」というと、どうも音楽科がメインの学校のイメージがあるのですが)
前半八割くらいは、多少の傷が気にならないくらいおもしろいのです。本当に。だけど、小説の収斂がこれでは納得いきません。娯楽には娯楽のルールがあるでしょ。そこがちょっと残念ですよね。

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