くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「追想五断章」米澤穂信

2010-03-21 07:06:35 | ミステリ・サスペンス・ホラー
「氷果」を結局読み終わらないまま返してしまったことがあるので、米澤穂信再挑戦です。「追想五断章」(集英社)。
小説を探す話、と聞いてはいたのですが、成程、こういう話でしたか。
父の死によって学費を稼ぐあてがなくなった菅生芳光は、おじの家に厄介になります。古書店。そこに持ち込まれた同人誌を買いたいという女性が現れる。北里可南子。松本からわざわざその本を探しにやってきたという可南子に、芳光はある依頼を受けます。「叶黒白」というペンネームで、自分の父が書いた小説を探してほしい、と。
運命も味方をしたのか、思ったよりも早く小説は見つかり、芳光は可南子に作品を送ります。彼女がいうには、家にある文箱にはその結末が残されているのだとか。
小説はどれもリドルストーリーで、読み手の想像に委ねる結末になっているのです。女が嘘を言ったのか、男は自分の妻子を犠牲にしたのか、それは小説からは読み取れない。作者だけが考えていた結末があるらしい。
可南子は、手に入った作品の結末を教えてくれます。
小説を探すうちに、芳光は「アントワープの銃声」という事件を知ります。可南子はその事件のことを知っているのか。父が母を殺したのだと疑われている、その事件を。
函型になった構造、小説を探す青年、寓話的なリドルストーリー。全く好みです。とてもおもしろかった。
結末で鮮やかに逆転する視点が快い。真相自体は若竹七海も書いていたことのあるネタですが、本を閉じてふと胸に蘇るのは、父の娘への愛情なのです。
自分の胸にだけ閉まっておくにはつらい過去。それを小説という形で発表したのは、汚名を晴らす意味でもあったのでしょう。でも、それは娘には気づいてほしくない事実なのです。いつか娘の目に触れてしまうかもしれない。それを防ぐためにあるしかけをしておく。
彼にとっては、秘密は永遠に秘密であってほしかったはずです。「雪の花」の終末のように。