日本の政治に主体があるのだろうか。何かをやろうとするのではなく、時の流れに乗ろうとしているだけではないだろうか。どうして切り拓く勇気を持たないのだろうか。自民党は総力を挙げて憲法改正を行い、自衛隊を名実ともに国軍にしなければならない。陸海空の三軍を持つ自衛隊が軍隊でないわけがないからだ。民進党や共産党は、安保関連法案に反対してお茶を濁すのではなく、立憲主義の見地からも自衛隊の廃止を訴えるべきだろう▼いずれも中途半端な議論に終始しているのは、時の流れに棹をさしたいだけなのである。自民党はタイミングを見ると評して、今日まで党是である憲法改正を正面切って争点化しなかった。これに対して野党も、国民の動向を注視するあまり、持論を展開するのを怠ってきたのである▼丸山真男は『歴史意識の「古層」』において、日本人の意識は、いかに外国からの思想の流入があったとしても、根本においては「つぎつぎになりゆくいきほひ」の一つのフレーズにまとめられるとした。とくに今の政治は外国から輸入された道理の感覚が意味をなさなくなり、「なりゆき」「つぎつぎ」「いきおい」に支配された日本の古層が露出してきているのではないだろうか▼丸山の見方はそれなりに正しいとしても、政治が主体としての決断を放棄してしまえば、誰もが責任を取ることなく、その場しのぎの言説がまかり通ることになる。危機的な時代にあっては、それは致命傷になりかねない。今こそ政治に求められるのは、時流に媚びない勇気と決断力なのである。
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