(4)
六年の月日がたち、ジョエルは二十歳の青年になりました。顔料を手に入れて、色つきの絵を描くようになっていました。あるとき、道端で絵を描いていると大風がふいてきて絵がとばされてしまいました。
その数日後、貴族の馬車がジョエルの小屋の前に停まりました。立派な身なりをした男が降りてきて、ジョエルに深々と頭を下げました。
「宮殿までお越し願いたい」
「……?」
あまりにも突然のことに、ジョエルは声も出ません。
「あなたの描いた絵が、王様の目に留まりました。」
絵が王に仕える貴族の馬車にとんでいき、それをみた貴族が王にみせると、王はたいそう気に入って、「この絵を描いた人を捜して王宮に連れてこい」と命令していたのでした。
「王様があなたに肖像画を描いてほしいといっておられます。どうか宮殿においでください」
「き、宮殿に……」
ジョエルは夢をみているのではないかと思いました。
ジョエルは王様に気に入られ、宮廷画家として住みこみで絵を描かせてもらうことになりました。
ジョエルに与えられた部屋には、まわりにダイヤがちりばめられた豪華なベッドがありました。床は大理石です。天井からは何十本ものろうそくが灯るシャンデリアが吊るされていて、夜でも絵を描くことができます。
夢にまで見た高価な絵具、絵筆や紙、イーゼルもそろっていました。一日三回食べきれないほどのごちそうが運ばれてきて、夜は羽根布団にくるまって寝る生活にジョエルは雲の上にいるような気持でした。
今日は王がキツネ狩りに行くのでついてくるようにいわれました。狩りをする王の姿を描くように命じられたのです。
ジョエルは約束の時間より早くしたくをすませ、門の近くで待っていました。
貧しい身なりをした女の人が門に近づいてきました。
「似顔絵の天才と呼ばれている画家に会わせてください」
婦人は門番にすがるようにしていいました。
「おまえのようなみすぼらしい者がくるところではない。帰れ!」
門番は女の人を追い払おうとしています。
「お願いします。天才画家にお願いがあるんです」
女の人はますます大きな声を上げて叫びましだ。そのとき、宮廷にいる画家はジョエルひとりでした。
「天才画家ってぼくのことかな」
天才画家だなんていわれたことに気をよくしてジョエルは女の人に話しかけました。
「ああ。あなたでしたか。お願いです。わたしの娘が死にかけているのです。どうか娘の絵を描いて下さい」
婦人はひざまずき、地面に頭をすりつけるようにひれふしました。
「うーん……」
ジョエルが考えこんでいると、ラッパの音が鳴り響きました。王を乗せた馬車がやってきたのです。
つづく
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