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生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

似顔絵描きの一生(7)最終回

2013-11-13 16:10:48 | 童話
 子どものころのことや宮殿で王に気に入られていたときのこと、宮殿から追い出されたことなどが次々と思い出されました。最後にあの人に会ったときのことを思い出しました。  

 悲しげな眼で何かを訴えているようでした。
「わたしが間違っていました。王宮でぜいたくに暮らしているうちに、貧しい人を無視するようになってしまったのです」
 ジョエルは手を組んで祈りの姿勢をとりました。そのとき、自分の手が思うように動かせることに気づきました。体中の痛みもうそのように消えています。

 ジョエルはとび起きると、描きかけの絵の前にすわりました。ふと窓に目をやると、あの人の顔がみえました。はっとして窓辺までいくと誰もいません。もういちど絵の前に座って窓に目をやると、あの人の顔がありました。瞳の色がはっきりとみえます。
「この色だ!」
 
 ジョエルは白と黒と茶、青と藍色の絵具をまぜ、紙切れにためし描きをしました。
「少し違う。何かが足りない」
 水を足したり絵具を足したり減らしたりしながら何度も何度も色を作りました。
「もう少し、もう少しなのに……色が作れない」
 ジョエルは絶望して頭をかきむしりました。

「ジョエル、あきらめるな」
 耳元であの人の声がしました。あの人がジョエルに寄り添うように立っていました。
(熱病で死にかけていたとき水をくれたのも、飢えていたときパンをくれたのもあなただった。あなたはいつも一緒にいてくれたのですね)
「ありがとうございます」
 ジョエルの目から涙がこぼれ落ちました。それがパレットの上にポトリと落ちました。筆でまぜると、あの人の目の色そっくりになりました。ジョエルは震える手で瞳をぬりました。

「涙色の瞳」
 ジョエルは満足そうにつぶやくと、あの人の腕に抱かれて目を閉じました。
 

 翌日ジョエルの家を訪れた人は、安らかなほほえみを浮かべて死んでいるジョエルと、完成した肖像画をみつけました。肖像画は後に美術館におさめられ、多くの人の心を慰め続けました。

                          おわり


長い作品を最後まで読んでくださってありがとうございます。2009年のブログにイエス様の瞳の色について次のように書いています。

【10年ぐらい前、聖書を舞台に童話を書いているとき、「イエス様の目は何色ですか?」とS牧師に尋ねたことがありました。民族学的に考えて何色ですか?という意味で聞いたのですが、S牧師は少し考えてから、 「イエス様の目は涙色」と答えてくださいました。
いっさいの苦しみ、痛みを引き受けてくださったイエス様の目は、きっと涙色なのでしょうね。】


そのときから、涙色の瞳の童話を書きたいと思っていました。
ようやく書けました。もの書きは、絵を描く人と音楽を奏でる人、演劇とも共通するところがありますね。

いちずに求めていく晩年のジョエルのようになりたい。生きているうちに神様の御心とひとつになった作品を書きたいと願っています。



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