アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

動機

2006-05-18 18:12:45 | 
『動機』 横山秀夫   ☆☆☆☆

 『第三の時効』があまりにも良かったので、今度は『動機』を買って来た。これも短篇集で、それぞれ主人公が違う。『第三の時効』は犯罪を捜査する刑事達の話だったが、この短篇集は警察の管理部門の人間、前科者、女新聞記者、裁判官、がそれぞれの主役になっている。

 表題作の『動機』は推理作家協会賞を取った作で、警察内部の事件を捜査する管理部門の人間が主人公。警察手帳三十冊が盗まれ、責任者の貝瀬は失地回復を賭けて内偵に奔走する。警察内部の軋轢や人間関係がリアルである。タイトル通りあっと驚く動機が用意されているが、展開がめまぐるしくて最後まで飽きさせない。『逆転の夏』はかなり評判がいい作品のようで、確かにまったく先が読めないスリリングな展開はすごい。しかしプロットがひねり過ぎな感じがして、私はそこまで良いとは思わなかった。『ネタ元』は女記者のストレスが描かれていて、なんか身につまされる。最後の『密室の人』は裁判の途中で居眠りをしてしまった裁判官の話で、彼の身に次々と降りかかる災厄がかわいそうである。これもなかなかツイストのきいた話で、ラストの意外な展開が気持ちよい。

 プロットの巧妙さは『第三の時効』に負けず劣らずだが、スーパーな男達の活躍を描いた『第三の時効』と違ってなんか身につまされるような、「大変だなあ」と同情したくなるような人々の悪戦苦闘を描いた短篇集である。そういう意味では、組織の中で疲弊した人々がたくさん登場する『半落ち』と共通するものを感じた。これもこの作者の得意技なのかも知れない。

 私は『動機』と『密室の人』が気に入った。しかしまあ、あまり感情移入すると胃が痛くなりそうな話ばかりである。そこが面白いのだが。あまりにも素晴らしかった『第三の時効』には及ばなかったが、面白い短篇集であることは間違いない。


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