アブソリュート・エゴ・レビュー

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フォー・ウェディング

2018-09-19 21:56:14 | 映画
『フォー・ウェディング』 マイク・ニューウェル監督   ☆☆☆☆

 所有するDVDで久々に再見。私は何を隠そうヒュー・グラントのファンなのだが、これはそのヒューのブレーク作である。脚本は後に『Love Actually』を監督するリチャード・カーチス。ロマコメ・ファンならとっくの昔にご存知の通り、本作はその後のヒューの十八番となるロマコメの原型であり、また一つの完成形と言っても過言ではない。

 全体の雰囲気はイマドキのにぎやかなロマコメとはちょっと違い、一昔前の、しっとりした、ちょっとノスタルジーを感じさせるようなロマンティック・コメディである。とにかく大笑いをしたい、という人には多分向かない。音楽もポップソングやロックではなくストリングス系の劇伴だし、ギャグもハリウッド式コメディとは違って皮肉っぽく辛辣な英国式ユーモアである。ただ私にとっては、しっとりとコメディのバランスはこれぐらいがちょうど良い。

 ロマコメなので、ストーリーはもちろんヒュー・グラント演じるイギリス人青年とアンディ・マクダウェル演じるアメリカ人女性が、出会ってすれ違ってやがて結ばれるまでを描くものだが、エピソードの構成がユニークである。タイトル通り、四つの結婚式と一つの葬式という冠婚葬祭場面をつなげることでストーリーを成り立たせている。これは「コロンブスの卵」的ななかなか秀逸なアイデアで、通常ロマコメの中では最大のハレの場となるウェディング・シーンを複数盛り込んでしまうことで、非日常的な華やぎとテンションを映画の最初から最後まで一貫して維持することができる。ただしその一方で、似たような場面が続くことで観客がダレるリスクもあるわけだが、この映画では同じことの繰り返しを巧みに避けながら、主役二人の関係を進展させていく。

 これはヒュー・グラントとアンディ・マクダウェルがそれぞれイギリスとアメリカという別の国に住んでいるため、冠婚葬祭の場でもなければ顔を合わせないという設定によって可能となっている。それぞれの結婚式も会場の雰囲気や企画されるイベント、登場人物など色々と特色を出してあって、観ていて楽しめる。

 とはいえ、そんな工夫の数々も、ヒュー・グラントのあの魅力的なキャラクターなくしてはここまでの効果を発揮しなかっただろう。その後のヒュー・グラントがほぼそれだけで食っていけるようになっただけあって、あの「おヒュー」キャラはやっぱり傑作であり、ロマコメの歴史が生んだ見事な発明である。お調子者のプレイボーイでありながら、繊細で、すれてなくて、ジェントルマンで、でもちょっと皮肉っぽいユーモアのセンスがあり、かつ、ちょっと間抜けで弱腰な美青年。

 前にもどこかに書いたが、この「ちょっと間抜け」が非常に重要である。「ちょっと間抜け」は人を癒し、場を和ます最強の武器なのだ。だからこそヒュー・グラント演じるチャールズは女にモテモテであっても嫌味がなく、憎めない。この後お約束のように繰り返され、「いつもおんなじ」と揶揄されるキャラだけれども、やはりこれがいいのだ。ヒュー・グラントでなければこの味は出ない。

 一方で、ヒューの相手役であるアンディ・マクダウェルはアメリカ人のミステリアスな美女という役どころだが、面白いのは何を考えているのかよく分からず、最初は金持ち狙いのビッチのように描かれている点である。実際にストーリーの途中で一度、自分よりずっと年配の大金持ちと結婚してしまう。おまけに、これまで33人の男と寝たという告白まで飛び出す。ロマコメのヒロインとしては異色ではないだろうか。なんでチャールズはこんな女にあそこまでぞっこんになってしまうのだろう、と多くの観客が思うに違いない。

 それを言うなら、ヒュー・グラント演じるチャールズもクライマックスで結婚をドタキャンしてしまうし、しかも相手は過去一度悲しい目に合わせている女性である。これはかわいそうだ、と大半の観客は思うに違いない。ハリウッド映画や邦画なら、主人公側のエクスキューズとして相手側にも落ち度(たとえば主人公をダマしていた、とか)を持たせるところだろうが、この映画ではそうしない。

 こんな風に主役二人を清廉潔白な男女にしないところが英国式コメディのひねりである。共感できない、という人もいるだろうが私は面白いと思う。要するに、これは主役二人に観客を感情移入させることではじめて成り立つ映画ではない、ということだ。恋愛や結婚というものを斜めに見ているし、どこか冷めている。その冷めっぷりがおとなである。

 英国式のギャグも楽しい。特にローワン・アトキンソンの牧師が緊張して言い間違いを連発するシーンが最高。チャールズの披露宴でのスピーチ、それからキャリーへの告白場面もいい。笑いだけでなくしんみりするシーンもちゃんとあって、葬式で友人の一人が故人を偲んで詩を朗読する場面はとても感動的である。

 ヒュー・グラントの若さとみずみずしさも、今見ると感動するレベルだ。ロマコメ好きなら必見の歴史的傑作。



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