アブソリュート・エゴ・レビュー

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赤い橋の下のぬるい水

2009-11-02 20:12:16 | 映画
『赤い橋の下のぬるい水』 今村昌平監督   ☆☆☆★

 日本版DVDで再見。主演は『うなぎ』と同じく役所広司、清水美砂のコンビ。例によって奇妙で不穏で滑稽でちょっとシュールな世界が展開するが、『うなぎ』と比べると毒気は薄めだ。ほのぼのしている。そのせいで印象は薄く、今回二度目の鑑賞だが内容をほとんど覚えていなかった。ただ、観始めるとそこそこ面白くて退屈することはない。

 会社が潰れて失業者となった陽介(役所広司)はホームレスに混じって求職活動をするがうまくいかない。子供を連れて実家に帰った妻からはうとまれている。そんな時にホームレスのタロウが死に、陽介はタロウが昔隠したという黄金の仏像を探しに能登半島の町にやってくる。その家にはサエコという女(清水美砂)が住んでいた。サエコは体に水がたまる病気で、水がたまってくると悪いことがしたくなって万引きするという性癖の持ち主だった。陽介はサエコとセックスして水を抜いてやる。「ぼくで良かったら、これからも協力するから。万引きは止めた方がいい」

 陽介は安宿に泊まり、漁船に乗ってアルバイトを始める。黄金の仏像をこっそり探すがどうやらそんなものはないようだ。サエコは水がたまると陽介を呼んで抜いてもらう。「あの女は妖怪だから、止めた方がいい」と忠告する漁船仲間の言葉が気になりつつも、サエコとの曖昧な関係をやめられない陽介だった…。

 水がたまる女サエコ。セックスして水を抜く。これはやっぱりおおらかな性のファンタジーなのだろうか。「人生はチン○が固いうちだぞ」なんてセリフも出てくるので、セックスというか性欲が重要なテーマになっているのは間違いない。水がたまってくるとサエコはベランダから漁船に乗っている陽介に向かって合図をする。その足元には漏れてくる水がポタポタと滴っている。陽介は漁船を降りたら全力疾走してサエコの家にやって来て、防水シートの上でセックスをする。噴水のように水が噴き出す。なんだかファンタジーというには生々しいが、おおげさにコミカルな描写になっているのでそれほどいやらしい感じはしない。それに絡みは結構激しいけれども、清水美砂の裸を見ることはできません。

 例によっておかしな人々が色々と出てくる。「哲学者」と呼ばれるホームレス、神のお告げでおみくじを書く老婆、アフリカ人のマラソン選手、釣り人たち、まずい飯しか作れない宿屋のおかみ。こういう人々に囲まれて、不思議にヌクヌクした陽介の日々が続いていく。『うなぎ』もそうだったが、こんな町に住んだら楽しいだろうなと思わせられる。のんびりと居心地がいい、一種白昼夢的なファンタジーだ。

 終盤、サエコに変な男が接近してきたりしてちょっと緊張感が高まるが、大した破綻もなく物語は終わっていく。「あの女はやめた方がいいぞ」という漁船仲間の忠告も、特にその後の展開はない。会社組織や家庭から締め出された陽介も、みんなからゲテモノ扱いされるサエコも、結局なんとなくいい感じにおさまってしまう。この結末の弱さが薄味の映画になってしまった原因だと思う。けれどもさすがにディテールを繰り出す今村監督の手並みは達者だし、役者陣の演技も充実している。のんびりリラックスして観る分には面白い映画だ。


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