『琥珀捕り』 キアラン・カーソン ☆☆☆☆★
再読。「文学のカモノハシ」とある書評家が評したように、エッセーとも小説ともつかないハイブリッド・テクストである。この手の文章は日本で言うと澁澤龍彦とか、海外でもミシェル・トゥルエニが断章形式の本でやったり、傾向は違うがミラン・クンデラの小説でも似たような手法は見ることができる。ただし、この本ではそれが徹底している。全体を通してあるプロットが存在し、そこにエッセーや逸脱を織り交ぜていくのではなく、もともと通しのプロットがないのである。
本のタイトルにもある通り、こういうどんどん拡散していくテクストをまとめるキーワードが「琥珀」である。ギリシャ神話、聖人伝説、中世のチューリップ熱、冒険王ジャックが語る短篇物語、フェルメール、ボルヘス、などが次々に語られる中、あちこちに琥珀というモチーフが顔を出して全体に統一感を与えている。もちろん、琥珀そのものについての薀蓄はここぞとばかりに語られる。プリニウスの説やら、ギリシャ神話の説やら、古代中国の説やら。
話の飛び方は、巻末エッセーで柴田元幸が書いているように「尻取り方式」で、あるひとまとまりのテクスト(エッセーだったり薀蓄だったり物語だったり)の最後あたりに現れた言葉にスポットを当て、そこから別のテーマに飛ぶのである。この飛び方もスムーズでもあり唐突でもあり、なかなかセンスが良い。それに単純に話を数珠繋ぎにするのではなく、前に語った話がちょっと違うニュアンスで再び現れたりと、芸が細かい。
琥珀の話も面白いが、引用されるギリシャ神話その他の物語もなかなか面白い話が揃っている。語り口がスピーディーで現代的だったりする(話によって違う)ので、余計に面白かったりする。創作だか引用だか知らないが、冒険王ジャックが語る物語の数々もアラビアン・ナイトみたいで引き込まれる。薀蓄にしろ物語にしろ、この人の話は神話系・おとぎ話系が多いので、澁澤龍彦が好きな人は趣味が合うと思う。私もその一人だ。
最後の方の話で印象に残っているのは、フェルメールの贋作を作った男の話である。この話は神話的でなくジャーナリスティックな語り口だが、これは本当の話だろうか。巻末に参考文献名が書かれているので事実かも知れない。だとしたら飛び切り面白い話で、これだけで一冊本が書けるテーマだ。
すべてのテーマが面白かったわけではないので個人的には五つ星には至らなかったが、相当に贅沢な読書をさせてくれる本であることは間違いない。手法にも凝る作家のようだし、洒落っ気があるし、今後の作品が楽しみだ。
再読。「文学のカモノハシ」とある書評家が評したように、エッセーとも小説ともつかないハイブリッド・テクストである。この手の文章は日本で言うと澁澤龍彦とか、海外でもミシェル・トゥルエニが断章形式の本でやったり、傾向は違うがミラン・クンデラの小説でも似たような手法は見ることができる。ただし、この本ではそれが徹底している。全体を通してあるプロットが存在し、そこにエッセーや逸脱を織り交ぜていくのではなく、もともと通しのプロットがないのである。
本のタイトルにもある通り、こういうどんどん拡散していくテクストをまとめるキーワードが「琥珀」である。ギリシャ神話、聖人伝説、中世のチューリップ熱、冒険王ジャックが語る短篇物語、フェルメール、ボルヘス、などが次々に語られる中、あちこちに琥珀というモチーフが顔を出して全体に統一感を与えている。もちろん、琥珀そのものについての薀蓄はここぞとばかりに語られる。プリニウスの説やら、ギリシャ神話の説やら、古代中国の説やら。
話の飛び方は、巻末エッセーで柴田元幸が書いているように「尻取り方式」で、あるひとまとまりのテクスト(エッセーだったり薀蓄だったり物語だったり)の最後あたりに現れた言葉にスポットを当て、そこから別のテーマに飛ぶのである。この飛び方もスムーズでもあり唐突でもあり、なかなかセンスが良い。それに単純に話を数珠繋ぎにするのではなく、前に語った話がちょっと違うニュアンスで再び現れたりと、芸が細かい。
琥珀の話も面白いが、引用されるギリシャ神話その他の物語もなかなか面白い話が揃っている。語り口がスピーディーで現代的だったりする(話によって違う)ので、余計に面白かったりする。創作だか引用だか知らないが、冒険王ジャックが語る物語の数々もアラビアン・ナイトみたいで引き込まれる。薀蓄にしろ物語にしろ、この人の話は神話系・おとぎ話系が多いので、澁澤龍彦が好きな人は趣味が合うと思う。私もその一人だ。
最後の方の話で印象に残っているのは、フェルメールの贋作を作った男の話である。この話は神話的でなくジャーナリスティックな語り口だが、これは本当の話だろうか。巻末に参考文献名が書かれているので事実かも知れない。だとしたら飛び切り面白い話で、これだけで一冊本が書けるテーマだ。
すべてのテーマが面白かったわけではないので個人的には五つ星には至らなかったが、相当に贅沢な読書をさせてくれる本であることは間違いない。手法にも凝る作家のようだし、洒落っ気があるし、今後の作品が楽しみだ。
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