アブソリュート・エゴ・レビュー

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バットマン

2015-02-14 12:01:32 | 映画
『バットマン』 ティム・バートン監督   ☆☆☆★

 「バットマン」といえばすっかりノーラン版がデフォルトになってしまった感があるが、オリジナルはこちら、ティム・バートン版である。1989年公開。いい歳したおっさんである私はよく覚えているが、この映画が公開された時は「スーパーマン」の優等生的ダサさとは違うダークなヒーロー、ゴッサムシティやバットマンカーの造形に横溢する独特の美意識、音楽には当時最先端だったプリンスを起用したイケてるセンス、などの要素がないまぜになって、結構サブカル通向けのカッコいい映画という捉えられ方だったと思う、私の勘違いでなければ。それからノーランの『ダークナイト』もそうだったが、やはり主役のバットマン(マイケル・キートン)より悪役のジョーカー(ジャック・ニコルソン)の方が目立っているというもっぱらの評判だった。

 カッコいい映画かどうかは別として、やはりティム・バートン版とノーラン版との最大の違いはこの怪奇趣味、オタクっぽい美意識に貫かれた箱庭的世界観、ダーク・ファンタジー的な非リアリズム路線にある。ノーラン版が徹底したリアル路線、硬派なアクションもの路線で攻めているのに対し、バートン版は「遊び」色が強く、ブラック・コメディの趣きがある。
 
 その象徴ともいえるのが物語の舞台となるゴッサム・シティである。この映画におけるゴッサム・シティはまさしく箱庭だ。ティム・バートンの脳内に閉ざされた、独特の美意識で染め上げられた人工的な世界である。ノーラン版のように、ニューヨークでロケしたのかな、みたいな雰囲気はまったくない。セット美術とアニメーションによって創造されたファンタジー世界であり、それを隠そうともしていない。そしてバットマンやジョーカーも、こういう世界でしか生息できないデフォルメされたキャラクターとなっている。

 バットマンのスーツは、この映画の公開当時はかなり重厚に見えたものだが、ノーラン版を観た目で見るとやはり、黄色いバットマンマークがついていたりするのがチャチな感じだ。しかしスーツについているガジェットあたりはまあまあ同程度の高級感はあるし、何より、バットマンを演じているマイケル・キートンに不思議な風格がある。どこか超然とした、非常におとなっぽいバットマンであり、ブルース・ウェインである。時々コミカルな部分もあるが、基本的には頼りがいのある知的な大人の男性であり、大人の男性としての色香もある。大金持ちらしいエキセントリックさがあるところもいい。いまだに、マイケル・キートンこそ最高のバットマン俳優だという人がいるのも分かる気がする。

 そしてヒロインのヴィッキーを演じるのがキム・ベイシンガー。彼女がまた素晴らしい。個人的には有名な『ナインハーフ』より、この映画の彼女の方が全然美しいと思う。全盛期にある女優の輝くようなオーラを発し、本当にあでやかだ。彼女の存在が、このダークでブラックな怪奇映画に匂い立つような華やかさをもたらしている。

 それからキーパーソン、ジョーカーのジャック・ニコルソン。怪演である。ノーラン版のヒース・レジャーはサイコパスとしてのまがまがしさとおぞましさを臭気のように発散する不吉なジョーカーを造形したが、ニコルソンのジョーカーはよりコミカルで貫禄に満ち、能天気である。ヒース・レジャーのジョーカーは観客の背中を凍りつかせるが、ニコルソンのジョーカーは笑わせ、愉しませる。私が一番笑ったのは、電撃で焼き殺した男の死体と一人芝居で会話し「冷酷な男だな。君が死んでいてよかったよ」と言って笑うところだ。

 そして、なんといってもバットマン・カーがかっこいい。こればかりはノーラン版よりこっちの方が上だ。ノーラン版のバットマン・カーは要するに凝った仕掛けのタンクに過ぎないが、これはまぎれもないバットマン・カーである。あの流れるようのフォルムの美しさ、炎を噴き出すエキゾースト、高速でカーブを曲がる時に支点部分にワイヤーを撃ち込むギミック。街中で乗り捨てる時に、ガチッガチッと鎧のようなシールドで保護されるのもいい。

 物語はどうということもないが、やはり豪華で中世的なウェイン邸でのヴィッキーとブルースの晩餐や、教会の鐘楼での最後の決闘など、ゴシック趣味横溢する場面が印象に残っている。あとはジョーカーの躁病的なはっちゃけぶりだろうか。

 結局のところ、ノーラン版がいかにバットマンからコミック色を払拭するかというアプローチの映画だとすれば、バートン版は堂々とコミック愛を謳った映画なのだ。多少のチープさはあるものの、この独特の箱庭感覚に貫かれたダーク・ファンタジーにも捨てがたい味があると思う。大人を童心に返らせてくれる映画だ。



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2 コメント

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バットマン (無銘)
2015-02-15 18:09:08
ノーラン版のバットマンしか見たことがないのですが、こっちはコミカルな感じなのですね。
ノーランはバットマンを作りたかったというより、今の映画界は原作物じゃないとヒットしないので、自分の作りたい物にバットマン要素を取り付けただけに感じます。
まぁ、それがたまらなく面白いのはノーラン兄弟の実力なのですが。
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ノーラン版 (ego_dance)
2015-02-19 10:09:24
これはわりとコミカルな感じですね。私もどっちが面白いかと言われれば、ノーラン版をとります。でも、これに出てくるバットマン・カーはかっこいいですよ。
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