アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

A・SO・BO

2018-10-18 00:35:50 | 音楽
『A・SO・BO』 CASIOPEA 3rd   ☆☆☆☆

 カシオペアが最近カシオペア3rdという名前で活動再開していることをしばらく前に知り、iTuneでアルバムをダウンロードして聴いてみると、これが思いのほか良い。リズムセクションが替わって以降、かつての針の穴を通すような繊細なビートが失われた気がしてどうしてもテンションが上がらなかったのだが、カシオペア3rdになってから再び気になり始めた。

 カシオペア3rdのポイントは、言うまでもなくキーボーディストの交代である。オリジナル・メンバーである向谷氏が抜け、カシオペア初の女性メンバー、大高清美氏が加入したのだが、驚いたことに大高氏の主要インストゥルメンツはオルガンなのだ。

 カシオペアにオルガン! 最初はピンとこなかった。なんせ向谷氏のサウンドといえばデジタルシンセ、かつてのDX7に代表されるあの究極的にデジタルな音であり、あの音がカシオペア・サウンドの殺菌消毒されたようなどこまでも清潔なイメージを作り上げていた。ところがオルガンはその真逆で、アナログの代表みたいな音である。あの几帳面でカッチリしたカシオペア・サウンドの中でどんな風にオルガンが鳴り響くのか、想像がつかなかった。

 ところが実際に聴いてみると、これがイイ。正解である。かつてのカシオペアの持ち味だった金属的感触、クールネス、要するにデジタルくささがなくなり、その代わりにぬくもりのあるオルガンの音色が出現した。アナログ感満点でありながら、同時にカシオペアのテクニカルでカッチリした演奏にも自然に溶け込んでいる。そしてそれに合わせるように、サウンド全体でロック色が強まっている。野呂一生のギターしかり、神保彰のドラムしかり。

 そしてこのロック色を強めたサウンドには、ナルチョ氏の暴れ気味のベースがよく似合うのである。テクニックは十分ながら櫻井氏ほどの緻密さには欠け、その代わりワイルドでダイナミックなナルチョのベースは向谷氏のカッチリしたカシオペアには今一つなじまなかったが、オルガンが入って熱くロックっぽくなったカシオペアにはしっくりくるのである。

 しかしこのカシオペア3rdのアルバムを聴くと、かつてのカシオペアの音は向谷氏のキーボード・サウンドによって特徴づけられていたことがよく分かる。もちろん野呂一生氏のギターも特徴的だが、彼のギターにはもっと変幻自在性があり、ロック的なテイストもある。そしておそらく、カシオペア3rdでは彼は意図的にロック寄りのアプローチをとっている。「KA-NA-TA」なんて、以前のカシオペアでは考えられなかったような泣きのギターを披露していて、これがまたカッコいいのである。

 そして要所要所に入ってくるオルガン・ソロがなんとも魅力的。もちろん昔のプログレみたいなオルガンじゃなくて、きれいで現代的なオルガンの音だが、それでも味がある。キーボード・サウンドだけに関して言えば、私はデジタル・シンセよりオルガンの方が好きだ。

 そんなわけで、私はさっそくiTuneからカシオペア3rdのアルバムをあれこれダウンロードしてヘビロテしている。ジャズっぽいカシオペアが好きだった人は不満かも知れないが、カシオペア3rdはもはや昔のカシオペアとは別のバンドだと思った方がいい。そう思えば、熱さと端正、エネルギッシュと洗練、ワイルドと知性が共存するこのバンドは十分に魅力的だ。



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